上手な診療所の利用の仕方



 

A(アナウンサー) :最近,大きな病院では外来の患者さんが増え,3時間も4時間も待つのが当たり前などと云われていますが,本日は上手な病院や診療所の利用の仕方についてお話しを伺いたいと思います.
 F(福田);  いま言われました様に,大きな病院には沢山の患者さんが通院されています.この状態は患者さんにとっても、病院にとっても決して良いことではないのですね.今日は上手な診療所の利用の仕方,について病院の医師の立場でお話ししてみたいと思います。



 A; 体の調子がいつもと違うなと感じたときや,病気かな?と思ったとき大きな病院を受診しますといろいろな診療科や検査設備などが揃っているので安心なような気がしますが、どうして良いことではない、のでしょうか.

 F; 患者さん方は何か症状があると,直ぐに重大な病気に結びつけて不安になります.実際には,極くありふれた病気とか,自覚症状のみの場合が多く,症状を軽くするような治療で経過を見ているだけで自然と改善することが多いのです。始めから特別な検査が必要
な場合はそれ程はありません.

 

A: 診療所で診ていただいていて経過が思わしくなかったので病院に行ったところ肺炎だとか脳梗塞だとか診断がついた,とか病院の薬では直ぐに治った,やはり始めから病院に行けば良かった,という話を良く聞きますが

 F: このことは患者さんの話としてはよくあることです。初診では病気の始まりの状態を診ることになるわけですが,この段階で正確な診断を付けることは病院であろうと診療所であろうと難しいのです.病気や症状は時間と共に変化していきますので、医師はその変化も参考にしながら診断を進めます.
 ところが,患者さん方は診療所を受診して経過が思わしくなければ、次ぎには病院に受診する方が多いのです.そのまま通院し続けていれば診療所でも診断がついたと思います.
 又,軽い病気の場合,数日で自然と快方に向かうのが普通ですので,後で処方された薬の方が効いたような感じを受けるのです.
 それと、よく理解して頂きたいのですが、診療所の先生方は自分のところで治療し続けていてもいいのか,否かの見極めにとても神経を使っています.そして,どの時点で,何処の病院に紹介すべきか,を常に考えながら診療されています.だから,安心して診て頂いていて良いのです.  


 A: すると私たちが診療所か病院のどちらを受診すればよいのか、その選択の基準をどの様にすればいいと先生は考えておられますか。

 F: いろいろな場合があるので単純に分けられませんが,私は次ぎのように考えています。例えば、症状が軽く,診てもらってから仕事に行こうとか,家でゆっくり休もう,と思うようなときにはわざわざ大きな病院に行って一日がかりで診てもらうよりは,診療所への受診が良いと思います。
 しかし、一番良いのは、普段からかかりつけの医師をもっていただいて,電話などでどうすればいいのか指示を受けることです。



 A: どうして最近では大病院志向になってきたのですか

 F; 最近の患者さん方は医学知識も増えてきて,医療への要求度も高くなってきていますが、健康への不安は寧ろ大きくなっていると思います.
 病院はこの間,高価な医療機械をどんどんと備え,評判の悪かった患者さん方へのサービスの改善にもつとめてきました.マスコミも先端医療のことや病院のサービス向上については頻回に報道してきたんですね.一方,診療所は病院ほどは時代の変化に対応出来ませんでしたし,医師も総じて高齢化してしまったわけです.この様な流れの中で,診療所では充分な治療は出来ない,と患者さん方に思われたため,と思います.
 ただ,この点については,患者さん方は誤解なさっている,と私は思っています.患者さん方は病気の知識を新聞の医療記事や,健康雑誌などから得ていますが,文字のみから正しい知識を得ることはかなりの基礎知識がないと難しく,正しく理解されていないことことの方が多いのです。そのため,例えば軽い頭痛でも直ぐに重大なクモ膜下出血ではないかと考えて不安になり,CTやMRIの検査をして下さい、と云って病院に来られます.
 私は,患者さん達が考えて来た病気がもし本当なら秋田県の人口は半分に減りますよ・・などと説明しますが、検査しないですむ患者さんの方がはるかに多いのです.
 患者さんへの医療上の教育は文字を介してではなく、医師が直接行うようにしなければ誤られやすいのですね.



 A: 先生が一番良いと考えている受診の仕方はどの様なものですか

 F; 何でも相談できるかかりつけの先生を持って頂くことにつきます.患者さんが大きな病院に受診するのは不安が強いからです。 かかりつけの先生ですと何でも気軽に相談できるでしょうし,分かり易く説明してくれますから、殆どの不安は解消するのではないでしょうか。又,必要なときには病状に合わせてしかるべき病院に紹介していただけます.
 かかりつけの先生には、今日お話ししましたような軽い症状がでたような場合のほかに,高血圧などの慢性疾患の治療、及び在宅医療の管理、をお願いすればいいと思います。



A: 今後診療所はどの様になっていくのでしょうか。

 F; 病院は今後更に専門性が増して,優れた医療技術を駆使して医療を行う様になっていくだろうと思います.だからと言って,患者さん方の健康や病気に対する不安はそれほど無くなるわけではないのです。何故かというと、よい医療、安心できる医療は医師と患者のいい人間関係がないと成り立たないからです。良い人間関係の形成には随分と時間がかかります。が、そこまで病院の専門医に期待するのは難しい,と思います。
 診療所の医師は外来治療の専門家として,身近なかかりつけ医として,また先進的で高度な近代医療と患者さん方の橋渡しをする役目として、その存在価値はますます高くなっていく,と思います。
 私は新しい診療所の時代が必ず来ると考えています。そのためには病院と診療所の機能の違い,あるべき姿を,特に病院の医師がきちんと認識し,患者さん方の通院についても指導することが必要だと思っています.



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