高齢者に相応しい医療(上)

中通病院友の会交流会記念講演 
中通総合病院 副院長 福田 光之
      


 今日は、「高齢者に相応しい医療」ということで私の本音を話します。言いたい趣旨は「残りの人生を楽しく過ごして、その日が来たらいい旅立ちをしましょう」ということで、そのためには「病院より美容院」、「医者よりは石屋」と発想を変えて、おしゃれや生活を楽しみ、逝くべき時のために好みの墓石でも用意しておくのがいい,と言いたいのです。
 何故かと言いますと、皆さんの今の元気の源は100%自分の力であって、医者や薬の力なんて大して役に立っていないのです。それをまず自覚して自分自身にもっと自信を持ってもらいたいのです。

いかに楽しく生きるか
 日本は平均寿命が世界一で、とても素晴らしいことです。しかし、楽しいことばかりだけではありません。長く生きると言うことは身体的な苦痛や悲しみと共に生きる事でもあります。
 平均寿命の推移をみますと、江戸時代は10歳程度でした。昭和22年に50歳を迎えて。35年頃に70歳、いま85歳です。江戸時代なぜ10歳代かというと、それは赤ちゃんが多く死んだからです。
 高齢化社会が来た理由の第一は平和であること、母子保健が充実していて赤ちゃんとお母さん方が死ななくなったことが大きい。第二には生活レベルが向上して衣食住が豊かになったこと、上下水が整備されて環境がよくなった、トイレがきれいになった、お風呂にも毎日はいれるようになった事なども関連しています。第三に労働災害が減少し、炭坑とかで人が死ななくなったこと。また、結核などの感染症が減ってきたことです。そして、少しだけ医療の発達が寄与しているということです。
 要するに医者に通うから長生き出来るのではなく、長生き出きる環境の中に住んでいるからと考えた方がいいのです。
 平均寿命は死ぬまでの寿命のことですが、より大事なのは健康寿命です。これも日本が世界一で、75歳です、そして平均寿命は80歳ですから、お年寄りは、虚弱状態、時には寝たきり状態で平均5年間も過ごしてから亡くなることになります。そんな生活に陥らないようにしなければならないのですが、どんなに工夫しても何れは体力的限界を迎えます。高齢の方が何らかの病気になったときは寝たきり状態になり易いのです。
 一方、お年寄りの特徴は個人差が大きいと言うことです。中には金さん銀さんみたいな人もいますが、あれは理屈抜きに運がよかっただけで、努力して到達できるものではありません。一般的に考えてみますと、80歳過ぎればチョットしたことで寝たきりになる可能性が高いということを日頃から自覚して欲しいと思います。だから、80歳までにいかに楽しく生きるかということの方がはるかに重要なのです。


生きているのは自分の生命力

 私が医者になった昭和40年代は、お年寄りもなかなか病院に行けませんでした。あの当時は、お医者さんに往診を頼むときは死ぬときでした。今は具合が悪くない人が病院に来る時代です。待合室で「今日あの人何としたべ」、「多分具合が悪りがら来ねんだべ」というのが最近の待合室の会話です。でもこれは素晴らしいことかもしれません、あの当時と比べたらもう誰でも病院に来ることが出来ます。
 そして、薬の数、随分多いですね。高齢者の方で一種類しか飲んでない患者さんは少なく、なかには11種類以上の人もいます。こういう風に薬をたくさん服用している方は本当に必要な薬であるのか主治医によく相談して下さい。ある患者さんは15種類もの薬を飲んでいて、「毎日薬がないと心配だ・・・」と言っていました。ところがお孫さんが九州で交通事故に遭って、お見舞いがてら家族と一緒にその患者さんも行き、4ヶ月ぐらい経ってまた私のところに来たので、私が「どごさ行ってたの、あの世さ行ってたの」と聞いたら、「九州さ行ってた」と答え、その姿は前よりもはるかに元気で、「薬はどうしたの」と聞くと、「あれから全部飲んでません」という返事が返って来ました。飲んでいる薬の中には何かの症状に対して一時的に処方されたものが、そのまま継続になっている場合もあるのです。皆さん方も薬に対しては日頃から、「この薬は私に必要なんですか」と主治医に聞いてみたら良いと思います。そうした方が、医療費も安くなるし、健康に対する自信にもつながり、体の調子も全体的に良くなると思います。

 まとめのために繰り返しますと、医療は健康や平均寿命にそれほどは寄与していません。先進的な医療で、従来であれば救命できなかった患者さんのうちの一部を助けることが出来るかもしれませんが、体力が衰えた患者さんを良い状態まで快復させることは出来ません。せいぜい寝たきり状態なら生かして上げられます。生きているのは自分の生命力であって、医療のおかげだという考えは、もし持っておられるなら捨てて欲しい。これは大切な、忘れてはならない自然の摂理です。

 私は、たとえ病気があっても、検査が異常であっても、元気で楽しければそれで良いという考え方です。私は、高齢者に対しては、残りの人生をより幸せに過ごせるように医療面から手伝っている、いう視点で診療をやっています。

                                 
  (中通病院友の会便り 2003/1に掲載)

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