講演集 〜ラジオ・テレビ番組から〜

ABS 2004/4/27 放送分

医師と患者さんのいい関係



 
医療がこれほど発達して、健康寿命や平均寿命が世界一という素晴らしい成果を挙げている日本ですが、医師と患者さんの関係に注目してみますと必ずしも満足出来ていない患者さんがおられるようですが・・・

 何時の時代でも年輩の方々は「今の若い者達は・・・」と言う意味の発言をします。この様な言葉は2000年以上も前のエジプトのピラミッドのにも刻まれていたと言います。これは時代に関係がない、いろいろな年齢のヒトが入り交じって暮らしている人間社会の宿命のような気がします。
 私は医師と患者さんの関係もこれに似ていると思っています。


それはどういうことなのでしょうか?

 実は、2000年以上も前から「心ある医師」、「心ある医療を求める言葉」がつづられているのです。例えば、有名なヒポクラテスという医師は紀元前400年頃の医師ですが、「医師は患者さんのためのことだけを考えて医療を行うべきである」、とか、「治療で知り得た患者さんの個人的な秘密は絶対に口外してはならない」、とか、「医師は人生を清く送り患者さんの治療に専念すること」・・・と言うような言葉を残しています。
 同じような言葉は、漢の時代の中国の文献にも残っていますし、日本では江戸時代に貝原益軒と言う方も残しています、貝原益軒の場合には特に「医は仁術である」という有名な言葉を残していますので多くの方がご存じだと思います。
 
 面白いことに、僅か一ヶ月ほど前に発表された日本医師会の「職業倫理綱領」にも、「医療が発達して専門分化が進んだ今、大切なのは医師と病気の関係ではなく医師と患者さん関係である。その良い関係の構築のためには、医師は常に最善の治療をすべきである」と書かれていることです。


要するに医療あるところには時代に関係なく医師患者さん関係は難しい関係にある、と言うことでしょうか。

 この様いかなる時代にも同じような内容の言葉を残していると言うことは、そう言わなければならない様な医師が少なからず居たと言うこと、とか医師と患者さんの関係が患者さん側から見た場合、そう理想的な状態でないと言わざるを得ない関係にあることを示しているものだと思います。確かに、最近でも時にマスコミを賑わすような問題のある医師はごくごく希ですが居ないわけではありません。

 ところが、私は医師になって30数年たちますし、医師会の活動等を通じて多くの医師と知り合いになりましたが、「患者さんさんへの対応があまり上手ではない医師」は何人かはおりますが、患者さんさんの幸せを願わない医師は少なくとも一人もいません。それなのに私の周辺でも結構患者さんさん方からの苦情が多く、今の医師や医療に満足していない患者さんさんは大勢おります。
 これはどうしてなのかと考えた場合、私は、医師と患者さん関係の間には先に話した年代間のギャップのような、埋めがたい溝があるのではないかと思っています。


それはどういうことなのでしょうか

  私は、医師と患者さんという関係に於いてはお互いに立場が100%異なりますし、求めるものも全く異なります。医学知識にも雲泥の差がありますので、この間の溝は絶対に埋まるはずはないのだ、と考え、割り切って考えています。


と言うことは今後も解決する方法はないのでしょうか

 患者さんとの溝を埋める努力を医師側からすることは重要だと思いますが、これは医師側からの努力だけでは何ともしようがありません。何故かというと良い医療というのは良い人間関係を背景にした対話と、それを通じた共感がなければ成り立たないと言うことです。

 時間の関係で結論を急ぎますが、良い患者さんと医師の関係を構築するためには患者さん方には是非かかりつけ医を持っていただきたいと言うことです。


理想的な「かかりつけ医」はどんな医師がいいのでしょうか?

信頼のおける友人である
家族のことにも相談に乗ってくれる
専門医に速やかに紹介してくれる
24時間対応してくれる
できれば近所の方がいい
病気を治すより、ならないように指導してくれる。

と言うようなことが基本ですが、要は自分とウマの合う先生と言うことになると思います。



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