上手な病院利用法


 アナウンサー(以下A): 先日は体の調子がおかしいな,と感じたときに診療所や病院をどの様に利用すればいいのかをお話し頂きましたが,さて、今日は,症状の安定した慢性の病気の患者さんがどの様に病院や診療所を利用すればいいのか、伺ってみたいと思います.

 福田(以下F); 大きな病院では外来が混雑して,3H待ちが当たり前で通院はほぼ一日がかりとも云われています.患者さん方はより早く診て貰おうと早朝の5ー6時頃から順番待ちしているほどです.要するに,長い待ち時間で疲れはてた患者が,多すぎる患者で疲れはてた医師の診察を受けているわけで,これは患者にとっても、病院にとっても良いことではありません.入院中の患者さんも外来診療で疲れた医師の回診を受けていることにもなります.
 これを改善するには病院の医師を増やして外来能力を高ればいい,と患者さん方はおっしゃいますが,今の医療経済の仕組みではまず無理な話です。
 私は,患者さん方に病状に相応しい医療機関を選んで利用して頂くことでしか改善できないと思っています。
 

A: 患者さんの病状に相応しい医療機関をと言われましたが、病院の外来と診療所の医療の違いは何でしょうか?

 F: 病院と診療所は存在目的も医療内容も異なっている、と言うことをご理解頂きたいと思います.
 病院は入院医療を中心にした施設で,外来診療もその延長線上で行っています.即ち,ちょっと病状が変われば入院しなければならない様な患者さんとか,退院はできるものの病気がまだ充分には落ちついていない様な患者さん方の経過をみたり,治療したりするところなのですね.ですから,外来診療で医師が疲れはてているようでは本来の力が発揮できません.
 一方,診療所は比較的軽い病状の患者さんや、落ちついた病状の患者さんを対象に外来で治療を行うところで,診療所の医師は外来治療の専門家だと考えて良いと思います.

 
A: 病院にはどういう患者さんが通院されているのですか.

 F: 病院の外来には病気の状態や性質上から病院でなければならない,ので通院している患者さんが多数おられます。ところが、実際には,症状が全くないような,病気が落ちついている患者さん方も沢山通院されており,寧ろこちらの方が多いかも知れませんね。例えば、血圧を測定し、処方をうけるだけなのに、夜もあけない頃から起き出して、JRやバスを乗り継いで、あるいは高いtaxi代金を払ったり、して、ほぼ一日がかりで通院されている方も多いのです。
 この様な方々は、ほぼ健康に近い方といえますのでわざわざ病院までお出でにならなくても済む方々です。だから,私は近所の診療所への通院を積極的に勧めています。

 
A: 症状もなくなったのにいつまでも病院に通院し続けている理由は何でしょうか.

 F: 私は自分が担当している外来に通院されている患者さんに待ち時間が長いなどの悪条件を押してまで通院し続けている理由はなんですか,と尋ねてみていますが、家が近いから,大きな病院だと安心だから,病院に主治医がいるので,近くの診療所に移りたいと思っていても言い出せないでいた,という方々などです。そのほか意外に多いのは,病院に通院していると時間外や何かのときに優先的に考えてもらえるからと,自分の将来を考えて通院し続けている方々ですね.


 
A: 先生は前回から診療所の利用を協調されていますが診療所の良さ,有効な利用法についてはどの様に考えておられますか

 F: 診療所では同じ医師に継続的に何10年も診ていただけます.したがって,自然と顔見知りの関係になる訳で,気軽に受診できる様になりますし、自分の健庫管理の他、家族の健康のことなど、何でも相談できるようになるわけです.
 第一の良さは何と言ってもこの身近な”かかりつけ医”的なところにあります。
症状の軽い,当たり前の病気の場合,大抵のことは診療所で解決できますし、それ以上の場合には直ぐに病院に紹介してもらえます.
 第二に、治療方針が決まった慢性疾患の経過観察や治療の継続に相応しい,と言うことです。最近は生活環境や衛生状態も良くなり、脳出血とか肺炎などの急性の病気は大幅に減って、自覚症状が軽い、いわゆる生活関連病(成人病)が病気の大部分を占めてきてます。この様な状態の患者さんの治療は長い目での生活指導、経過観察、治療が主で、それほど頻回に大がかりな検査を受ける必要はないのです。同じ医師に長く診て貰うことの方が大切なのです.
 第三に,弱って通院できなくなった患者さんの在宅治療の際に,往診や訪問診療をお願いできるということです.


 A: 診療所に変わったら薬が違っていて経過が思わしくなかったのでまた病院に戻ったと・・という話を良く聞きますが.

 F: そう言って戻ってこられる患者さんは多いですね。ただ、同じくすりでも沢山の製薬会社から出ています。すると形が違うのですね.薬が変わって,と不安になって戻ってこられた患者さんのお薬を調べてみたら病院のと全く同じ内容だったと言う場合もよくあります。
 長いおつきあいをする先生ですから,遠慮無く確かめてみられればいいのです。

 
A: 慢性の病気もっておられる患者さんにとってどの様な通院のしかたが一番良いと先生は考えておられますか。

 F: 病状が安定されている方で,病院への通院が負担になって来たな,と感じ始めた患者さんは,今後どの様な治療や経過観察が相応しいか、病院の担当医とよく話しあってみればいいと思います。
 そうすると多分,今までどうり病院に通院すべき場合,地域の診療所で治療して良い場合,普段は地域の診療所に通院し、年に何回か病院の専門医に診てもらいに行く,という方法のどれかが示されると思います。
 近所の診療所に通院することで,一日がかりで,とか、高いタクシー代をかけて通院したり、家族が仕事を休んでわざわざ車で連れていったりするまでもなくなりますし、待ち時間もそれほど無く,自分の生活に合わせたペースで治療を続けることが出来るでしょう。また何時行っても同じ医師の診察を受けられると云うのも病院では得られない大きなメリットですね.
 病院の医師にとっても時間的に余裕が出来るので,しかるべき患者さんや入院患者さん方をじっくりと診ることが出来るようになります.
 私は患者さん方に診療所の有効な利用方法を広く知っていただき、もっと利用して頂きたいと考えています。それによって診療所も病院もますます発展するでしょうし,わが国の医療水準が向上すると思います.



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