www.mfukuda.com   〜 これからの医療の在り方 〜

21世紀の医療を守る県民の集い

これからの医療の在り方 > 講演集 >21世紀の医療を守る県民の集い > 第3回秋田県のがん医療は誤解されています。



秋田県のがん医療は誤解されています

21世紀の医療を守る会理事 福 田 光 之


             
2006年1月、NHK-TVと魁新報社の社説に驚く
 それでは、私から「秋田県のがんの医療は誤解されています」ということについて、簡単にお話ししたいと思います(図1)。
 今年1月、NHKテレビの番組及び魁新報社の社説を見て、我々は非常に大きなショックを受けました。「秋田のがん死亡率は日本一である」、これは正しいです。それから「秋田県にはがん診療拠点病院がない」、これも正しかったです。しかし、「だから秋田県の医療は劣っている」とは考えてはいませんでした。
 ところがNHKテレビの番組と秋田魁新報の社説は「だから秋田のがん治療のレベルはとても低い」と断じていました。これは、我々医療関係者だけではなくて、秋田県民にも大きなショックを与えました。


2006年7月、がん診療連携拠点病院に推薦の13病院が非承認
 そして今年7月、秋田県ではがん診療連携拠点病院として13病院を国に推薦しましたが、すべて不認定でした。兵庫県と並んで秋田県は、拠点病院を持たない2つの県の1つになってしまったのです。
 このニュースも県民にとってはすごくインパクトがありました。1月にショックを受けて、さらに半年後「やはり秋田のがん医療のレベルは低いのか」となったわけです。


2006年10月、がん診療連携拠点病院に秋田市内4病院非推薦
 そして10月、県はがん診療連携拠点病院として、秋田大学医学部附属病院と県南の3病院だけを推薦して、秋田市内の病院は推薦しませんでした。これを見た県民の方からは「秋田市内の医療機関のがん医療のレベルはそんなに低いの? 本当ですか?」という疑問の声がありました。これが今年次々と襲ってきた秋田県のがん医療に対するショッキングな事実です(図2)。


県民の声
 NHKの番組放送の後、私の個人的なホームページに書き込みがありました。ある県民からの投書です。「この間の、NHKの番組を拝見したものです。あの番組で、秋田のがん治療のレベルの低さを、まざまざと見せ付けられた感があります。私がガンに侵されたなら、一番先にする事は、一分でも早く秋田から出て首都圏で診てもらう病院を探すことだと感じました。そういう意味に於いては、県と医師会の怠慢を暴露するに非常に有意義な番組だと感じ取りました。間違いでしょうか?」。これは原文で、私は何も手を加えておりません。
 
 この後も数編の書き込みがありました。全部似たような内容です。また、秋田県の医療審議会では、公募で委員になられた一般県民の方から「秋田県には先進的な医療施設、がんセンターもありません。それからPETをはじめとする先進的な診断能力を持つ装置もありません。こんな低レベルのまま放置しておいてよいのでしょうか」という厳しいご意見もありました。それが県民の皆さんの隠さざる気持ちだったと思います(図3)。


秋田市内2病院は認定要件に合致、されど推薦されず
 今年7月の1回目のがん診療連携拠点病院の申請では13病院の指定がすべて見送られ、指定なしは兵庫県と秋田県になりました。厚労省の検討委員会から厳しい評価を受けて、指定要件を満たした2つの病院も認定されませんでした。実際、7月の段階では、秋田県では2つの病院が、国の評価から言えば認定されるはずでした。しかし、秋田県が13病院を一気に出したことが問題になり、十把一絡で認定されなかったのです。つまり、秋田県には、がん診療連携拠点病院に相当する医療機関は複数あったことをご理解いただきたいと思います(図4)。

 そして10月28日、秋田県はがん診療連携拠点病院の再推薦を行いました。推薦されたのは秋田大学医学部附属病院、由利組合総合病院、仙北組合総合病院、平鹿総合病院の4病院です。秋田市の病院は推薦されませんでした。その理由は、「秋田市の4病院はすべて要件はクリアしているが、県としては差を見出せず、機能分担が不明なため」ということでした。これで我々は大きなショックを受けました(図5)。
秋田県は何故がん死亡率日本一なのか
 次に、がん死亡率日本一について少し解説いたします。全国のがん死亡率は10万人当たり258.2、秋田県は同337.2で断トツに高いことは明らかなことです(図6)。
 それがテレビ番組で利用されました。そこで「秋田のがん死亡率1位は医療レベルを反映しているのでしょうか?」について解説したいと思います。がん死亡率は、全死亡者数の中におけるがん死亡者数の比率です。これに関しては死亡診断書から見ますから正しい値です。本当に全国1位です。しかし、我々は別に全国1位を困った状態だと思っていません。もちろん対策は必要です。そうすると疑問がたくさん出てきます。「秋田はがんの患者が本当に多いのですか?少ないのですか?」「県民のがんの罹患率、即ち、がんに罹る率は高いのですか?」「高齢県ですが、県民の年齢構成が高いから死亡率が高いのではないでしょうか?」「他の疾患で死ななくなったから、がんで死ぬのではないでしょうか?」。これらのことを考えた上での全国1位の意味づけであればよいのですが、全くこのようなことが配慮されずに、全国1位だけが一人歩きしてしまいました(図7)。

 「秋田県のがん死亡率1位は何が原因でしょうか」。図7で申し上げたいろいろな疑問には、実は答えがありません。なぜ答えがないかというと、先ほどの質問に答えを出すためには、「がん登録」という事業が必要になります。ところが日本では、全部のがんの登録はどこでも行われていません。従って、誰も答えられないのです。ところが秋田県には誇るべき「胃がん登録」「大腸がん登録」があります。この登録から胃がんと大腸がんについては話ができます。それについてお話ししたいと思います。


秋田県の「胃がん登録」「大腸がん登録」が示すもの
 秋田県の胃がん登録の精度は、他県に比べて良好でした。信用できるということです。胃がんと大腸がんは年齢を調整して死亡率を見ても全国1位でした。やはりそうでした。胃がんと大腸がんに関しては、高齢県だから多いのではありません。秋田県の胃がん罹患率は10万人当たり133.4人で、全国的に見ても断トツに多いのです。つまり、秋田県民は胃がんに罹りやすいのです。そして患者数は多いことになります。ところが、全体の胃がん患者数のうち、胃がんで死亡する方は全国は約50%で、秋田県は約48%でした。ほとんど差がありません。これは秋田県の医療レベルはそんなに低くないことを示唆しています(図8)。

 大腸がんの年齢調整罹患率も同じでした。大腸がんも年寄り県だから多いのではありませんでした。秋田県民は大腸がんにも罹りやすいのです。胃がんと大腸がんの高死亡率は、高罹患率によります。要するに患者さんが多いから高死亡率になることが結論です。次に胃がんの5年生存率です。外来で診断された方々の5年生存率は47.2%に対して、検診で診断されたの方の5年生存率は80数%です。つまり、早期に発見すると、がんの診断がついてもがんで死なないで済みます。それが秋田県ではうまく行っていません。なぜなら集団検診等の受診率が非常に低いためです。秋田県民はがんになりやすい身体を持っていながら検診を受けていないため、結果的に秋田県では胃がんが多いという結論になりました。大腸がんでも同様でした(図9)。


胃・大腸がんの死亡率を減らすには
 秋田県のがん死亡率が高いのはがん患者が多くて、かつ、より進んだ状態で診断されるためです。従って、胃・大腸がんの死亡率を減らすには、まず第一に塩分や喫煙などの生活習慣を改善することです。塩分摂取過多や喫煙習慣は秋田県では大きな意味を持ちます。従って、これらを改善することによって、秋田県の胃がんと大腸がんの罹患率を下げることが第一の作業です。第二に、検診の受診率を向上させて、できるだけ早いがんのレベルで診断して治療することです。第三に、全がん登録を行って、すべてのがんについて予防・診断・治療の対策を進めることです。この3つにまとめられます。
 秋田県のがん死亡率第1位というのは、医療レベルの反映ではなくて、県民の生活習慣と検診の低受診の反映であると置き換えてご理解いただきたいと思います。そうすれば、自分はがんで死なないために何をすればよいのかという結論が出てくるはずです(図10)。


がん診療連携拠点病院が無い秋田の医療は低レベルか?
 「秋田県にがん診療連携拠点病院がありません。医療レベルの反映でしょうか」。
 平成13年に「がん診療拠点病院」の募集がありました。これは厚労省の計画自体が実態を欠く内容で、県民に誤解を与えることを危惧して、県も県医師会も積極的に対応しませんでした。これは本当です。内容がない状態で、A病院が秋田県の「がん診療拠点病院」に指定されたら、一般県民はそこががんセンターと同じ病院だと誤解することが考えられます。その方がはるかに悪いという判断もありました。
 次に、今年4月の「がん診療連携拠点病院」の募集では、13病院を推薦して却下されました。実は、そのうちの2病院が認定要件を満たしておりました。しかし、「秋田県は13病院も出してきた」ということ自体が問題になって却下されました。そして10月の募集で、秋田市内の4病院は要件を満たしているのにもかかわらず残念ながら推薦されず、県南の3病院と秋田大学医学部附属病院が推薦されました。つまり、秋田県にがん診療連携拠点病院がないのは医療レベルが低いからではなく、政治的な却下を受けている、そして政治的な意味で推薦施設が選択されているということです(図11)。


秋田県議会でも事実と異なる説明がなされていた
 秋田県が発行する「あきた県議会だより」No.117号に9月定例会の内容が報告されています。
 9月定例会の一般質問における渋谷議員の質問が掲載されています。この質問の内容にも誤解があります。「13病院が全部却下されましたが、推薦された病院は緩和ケアチームがない、院内がん登録を行っていないなど最低の条件もクリアしていない。これから県はどうする気だ」という質問ですが、この質問自体が間違っております。緩和ケアチームはあります、院内がん登録もきちんと行っている病院がありました、というように少し情報がずれていました。
 県側は「県としてちょっと問題がありました。認めます。次には、国の検討会で明示された要件をすべて充足した病院を改めて推薦します」と議会で答弁していながら、実はそうしなかったのです。
 県医師会は非常にショックを受けました。中通総合病院と秋田組合総合病院は、この時点で国の指定要件を満たしたと認められておりましたが、県の姿勢が問われて残念ながら不認定となりました。この話は、県から本来、きちんと情報として県民に提供されてよいはずですが、多分されていなかったと思います。


シンポジウム「世界に語れる秋田県のがん医療」を企画、納得
 あまりにも秋田県の医療がコケにされるため、県医師会では今年9月に開催された第73回秋田県医学会総会でシンポジウム「世界に語れる秋田県のがん医療」を行いました。そのシンポジウムを聴いた我々は「秋田県のがん医療は決して劣っていない。この内容を是非、県民の皆様さんにお話ししたい。そしてディスカッションしたい」とみんながその場で考えました。それが、今日の会のルーツです。

 シンポジウムでは、「がん登録及び疫学」などの演題で、県内のがん医療の名だたる方々が並んでおります。特に、秋田県総合保健事業団の戸堀文雄先生が示された「がん登録及び疫学」のデータは、今日、私がお示ししたデータの一部になっております。戸堀先生についてはお名前をあげて感謝したいと思います(図12)。


結論:秋田県のがん医療のレベルは決して劣っていない
 結論です。秋田県のがん医療のレベルは決して劣っていませんので、ご安心下さい。ただし、がんの診療・治療は死亡率や施設の有無とは別のレベルでいまだに困難な領域であります。まだまだ改善していかなければならない点は数多くあります。医療は患者さん、ご家族、医療人の共同作業です。秋田県のがん医療を一層発展させるために忌憚のないご意見を、今日はいただきたいと思います(図13)。


自分の健康を守るために
 最後に、皆さん方、私を含めて「がんに対して自分としてどうすれば良いのか」ということをアドバイスして終わりたいと思います。ひとつは、検診を毎年受けることです。それで多分、がんで死なないと思います。もし、それでもがんに罹ったら、主治医と自分のがんについて十二分に話し合っていただきたいと思います。そして、場合によっては国立がんセンター、あるいは虎ノ門病院など、どこにでも行ってセカンド・オピニオンとして自分の身体を診てもらい、データを見てもらい、何が日本のいまの一番の治療なのかを教えてもらっていただきたいと思います。そして秋田に帰ってきて地元の病院で、例えば鳥海山が見えるのであれば窓から鳥海山を毎日見ながら、家族の元で、温かい介護の元で、地元のために頑張るんだという医師の元で、あるいは病院の元で、そこで良いがんの医療を受けていただきたいと思います。そのような治療、受診行動がベストだと私は思います。


福田光之 1945年岩手県生まれ。 新潟大学医学部を卒業後、岩手県立宮古病院、秋田大学医学部第3内科を経て、 医療法人明和会中通総合病院(院長) 秋田県医師会副会長(2007年現在) 
所属学会:日本内科学会 (認定医) 日本血液学会 (認定医,指導医)
2001年、私的ウェブサイト「これからの医療の在り方」を開設。医療に関するコラムや、拙い自叙伝、日常のどうでもいいようなことを徒然と書き綴っては一人悦にいっている。忙しくて最近、趣味のヴァイオリンを弾く時間がとれないのが悩み。
著者プロフィール詳細についてはこちら
 
著者近影

ご意見・ご感想をお待ちしています

これからの医療の在り方Send Mail