死亡診断書の記載
外因死との関連で

(秋田県医師会常任理事 福田 光之)

 


(1)福岡で医師が書類送検、関係職員も書類送検 
 共同通信社の配信記事。

 福岡県警は12月5日、特別養護老人ホームでストレッチャーから転落し、脳挫傷で死亡した85歳の女性の死亡診断書に福岡市にある某病院の副院長(57)と医師(39)が自然死と記載し、警察にも届けなかったことで二人の医師を医師法違反などの疑いで書類送検し、特養ホームの職員2人を業務上過失致死の疑いで書類送検した。

 事故は本年8月、特養ホームの介護職員らが入浴に際し、ストレッチャーの転落防止柵を外し、女性を起き上がらせ、目を離した際に床に転落した。女性は病院に運ばれたが、脳挫傷で死亡した。特養、病院側とも遺族に転落事故や死因を説明しており、特養ホームは市当局に対し8月中に事故を報告したが、その際、警察への無届けを指摘され、中央署に届け出た、とのことである。

 医師は、患者は来院時には生存しており、治療中に死亡したので診療中の死亡と判断し、「脳挫傷による外傷性ショック死」と記載し、「病死および自然死」とした。その際、医師は死因の種類について副院長に助言を求めたところ、病死でいい、と指示したということで二人の送検になった。

 この件の詳細は不明であるが、故意性はなかっただろう。しかし、死亡診断書の記載に明らかな誤りがあった。搬送時に死亡していれば自然死と記載することはないであろうが、例え治療後に死亡しても受傷が原因であれば死亡診断書は外因死にしなければならない。ただ、故意性、犯罪性がなかったであろうこのケースは書類送検というような形でなく、指導あるいはこれに近いレベルで処理することが出来なかったのか、と言う疑問は残る。

 最近、大野病院の例を嚆矢として医師に対しての判断は厳しくなっている様に思えてならない。心すべきであろう。

 実際、搬送時に患者が生存していて治療後に死亡した場合、数ヶ月間病状が安定し、他の合併症で死亡した場合などではどう記載するかなど迷ってしまう。実態は知ることは出来ないが、この様な場合に「病死および自然死」に記載する医師は必ずしも少なくない、のではなかろうか。

 私は直接この様なケースに遭遇することは少ないが、相談された場合には「誘因が外因で、一連の病態で死亡した」のであればどれだけの期間治療したかにかかわらず外因死にするよう指導している。その拠り所は日本法医学会のガイドラインである。このガイドラインは臨床医から見れば「診療関連死」の部分に問題点があるが、異常死の定義の中に「診療の有無にかかわらず、外因による障害の続発症、あるいは後遺障害による死亡」も含めており、例として外傷、中毒、熱傷に続発した敗血症・急性腎不全・多臓器不全・破傷風、骨折に伴う脂肪塞栓症などを上げているので、この点を参考している。

2)異常死にしてもしなくても結果は同じなら!!!  
 医師法21条に「医師は、死体又は妊娠4カ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とあるがこの異常死の定義が不明瞭である。これに対して大きく二つの見解がある。

 日本法医学会の見解は1994年に作成した指針で「広義説」とも呼ばれる。この指針では「病気が原因の突然死」、「診療 行為に関連した予期しない死亡」、「診療行為の合併症による死亡」、「原因不明の死亡」を含んでいる。

 日本外科学会は2001年に異状死に「診療行為の合併症として予期された死亡は含まれない」とした。また、2002年 には「重大な医療過誤が存在、または強く疑われる場合の医療行為関連死あるいは重大な障害は、異状死と同様に届け出るべき」とした。これは「限定説」と呼ばれる。

 医療の現場で両者の対立する見解部分に触れる事象、すなわち「診療行為に関連した予期しない死亡」、「診療行為の合併症による死亡」が生じた場合、どちらに拠って対応するかは現場判断によって行われなければならず医療現場は混乱している。
 福島県立大野病院産科医師逮捕事件を例にすると、外科学会説では異常死ではない。しかし警察は法医学会の見解を取り異常死と解釈した。そうなると虚偽の記載と届け出しなかったことも問われる事になる。大野病院で法医学会説に従って異常死と届け出れば、その時点で警察沙汰となったと思われる。

 結局、医療従事者は「どちらを選んでも犯罪者扱いされる」という板挟み状態に追い込まれる。

 私はこの様な場合は原則的に外科学会の「重大な医療過誤が存在、または強く疑われる場合は、異状死として届ける」という判断に沿う事にしている。
 ただ、この場合、24時間以内に適切に判断するのはとても困難である。また、過誤の有無について判断がグレーゾーンの場合もある。この時には家族の意向も参照する。警察に届けない場合には正規の届け出場所ではないが第三者機関として保健所、県の担当部署に届ける。

 どちらの判断をしたとしても管理者として責任が問われる事になる。

(3)こんな時はどうするか
 個々人の死亡に至る過程を出来るだけ医学的に、客観的に表現できる様にするために死亡診断書が現在の様式に改訂されたのは確か平成7年1月のことであった。記入者の判断に任されていた部分が減り、選択項目が増え、より単純化された。

 とはいえ、死亡に関して社会的、法医学的背景が変わったわけではないので記載に際していろいろな迷いが生じる。改訂された当時、異常死、外因死についていろいろな場面を想定して検討したことがあるので内容の一部を以下に示す。
 ■死亡原因が明確でなく、治療中の疾病との因果関係が明確でない場合の死亡は基本的に異常死として扱う。
 ■来院時心肺停止例の場合、医師が未だ死亡していないと判断し何らかの治療行為を行った場合には診療継続中の死亡となり、死亡診断書で良いが、来院時既に死亡していたと判断する場合には検案書となり、死亡した場所と推定死亡時間を記入する。
 ■外因死あるいはそれの疑いがある例、死因が明らかでない例等を扱った場合に警察と連携を取り合うことは医師に求められる社会的責務である。
 ■死亡への影響度が低くても外因による傷害が病的事象の起因となった場合には外因死の扱いとなる。例えば、自殺目的で薬物を服用し、2-3ヶ月生存しその後死亡した場合は外因死となる。
 ■死亡の原因として明らかな病態としての心不全、呼吸不全は記載しても良いが、他の疾患の終末期の病態としての心不全、呼吸不全は記載しない。
 ■死因としての老衰は高齢者の死亡で他に明らかな死亡原因がない自然死の場合のみ使用する。老衰状態に何かが合併して死亡した際には老衰も記載する。また、原因不明死と老衰は異なるものである。
 ■死亡診断書や検案書の発行は恐喝等の目的に用いられる恐れがあるなどの正当な理由が無い場合は拒否できない。医療費の未払いも理由にならない。
(4)どうしても分からない時はどうするか
 ■オーベンまたは院長・副院長に相談すること、に尽きる。

まず、今回はここまで。
                                                     



 (2007/12/9記)

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