www.mfukuda.com   〜 これからの医療の在り方 〜
これからの医療の在り方 > コラム > ノロウィルス感染症

ノロウィルス感染症


はじめに

ノロウイルス感染による急性胃腸炎はここ30年程前から主に冬期間に集団発生することで知られてきていた。特にここ数年は12月頃から幼稚園や小学校、老人福祉施設で集団発生し、医療機関でも院内感染が生じている。
病状はそれほど重篤ではないが、激烈な胃腸炎症状と強い感染力を持ち、院内で次々と伝播していき、お世話したスタッフも感染するなど、その影響は決して小さくない。私の徒然の中にも2003年来頻回に登場してきた。
この度、これらをまとめてみた。



(1)「SRSV(小型球形ウイルス)」→「ノーウォーク様(よう)ウイルス」→「ノロウイルス」へ
 
 「SRSV(小型球形ウイルス)」→「ノーウォーク様(よう)ウイルス」→「ノロウイルス」へ
 本日夕方の県からのファックス情報では県北の大館地区の保育所でノロウイルスの集団感染があった、とのこと。ノロウイルスはなじみのないウイルスでまた新興感染症かと心配する方もおられると思われるので簡単に紹介します。
 
 従来から、冬期間を中心に胃腸炎を起こすウイルスとして「SRSV(小型球形ウイルス)」があります。新聞にも時々取りあげられるために一般の方々にも結構知られて来ていたのですが、本年8月29日施行の食品衛生法の改正に伴い、ノロウイルスと名称が変わりました。ここまではまあ良くある話の一つですが、本年春の秋田市行われた剣道大会で生じた多数のSRSVによる感染事件の場合には新聞等では「ノーウォークウイルス感染症」という名称が用いられていましたので、県民にとっては些か複雑です。
 ノーウォークウイルスは、1972年のアメリカ合衆国のノーウォークでの胃腸炎の流行をきっかけに発見された一つのウイルスで急性の胃腸炎の原因になります。しかし、このノーウォークウイルスと遺伝子的に近くて、かつ胃腸炎を起こす、似たようなウイルスも多数知られていて、細かい区別せずにまとめて「ノーウォーク様(よう)ウイルス」呼ばれていたのですが実際にはいろいろと混乱も生じていたようです。そこで、最近、「ノーウォーク様ウイルス」を「ノロウイルス( Norovirus )」と呼ぶことになったのだそうです。
 
 ノロウイルス(SRSV(小型球形ウイルス))は、冬季を中心に、今では冷暖房が発達しているためにほぼ年間を通して胃腸炎の原因となっています。60℃10分程度の熱でも病原性を失わず、かつ、塩素系殺菌剤や消毒用アルコールに対しても抵抗性があります。
 感染経路は生カキの関与が指摘されていますが、学校や保育園などで、生カキを食べていないのに集団発生をする事例があり、原因として人から人への二次感染が疑われています。今回の発生もこの春の秋田市の剣道大会の集団発生はこれにあたります。
 潜伏時間は24-48時間で、下痢、吐き気、腹痛、発熱(38℃以下)が主な症状で、多くは3日以内で回復します。感染しても風邪のような症状で済む人もいます。抵抗力が落ちている人、乳幼児では数百個程度のウイルスでも発症するとされています。
 
 家庭、保育園、学校、病院、施設などでの二次感染を予防法を記しておきます。
■ 感染者の便、吐瀉物に触れない。接触した場合は十分な洗浄と消毒を行う。
■ 吐瀉物や、便で汚れた衣類等を処理するときは、ビニール手袋、マスクを用いる。
■ 吐瀉物や、便で汚れた衣類等は他と別に洗う。
■ 吐瀉物や、便で汚れた衣類等の処理に用いた用具、雑巾類は塩素系漂白剤でつけ置き洗いをする。
■ 吐瀉物や、便でなどで汚れた床は塩素系漂白剤を含ませた布で被い、しばらくそのまま放置し消毒する。

     (2003.12.12)


(2)全国的にノロウイルス感染症増加 !   昨年は中国でSARS、山口県で鳥インフルエンザ発生
 
 昨年の今頃、中国で35歳男性がSARSの疑い3例目として入院したが、国を挙げての対策の結果が幸いして蔓延しないで終息した。
 
  一方、山口県の養鶏場で約6000羽の鶏が死に「トリインフルエンザ」ウイルスが検出された。わが国では70年振りで、京都での隠蔽事件につながっていった事は記憶に新しい。
 
 広島県福山市の特養「福山福寿園」で入所者7人が年末から年始にかけて急性胃腸炎状態で死亡したが、ノロウイルスであった。同園は発症者が出た昨年末から1月6日までの間、病状や介護の度合いに応じて部屋を頻繁に移動したと言うが、この移動も感染が広がった一因になったと考えられる。同園の理事長は行政への通報が遅れたことについて「治療に没頭してパニック状態だった」などと釈明しているが、そうであればこそ通報が必要だったのだ。
 
 このほか、各地の高齢者社会福祉施設で同様の症状を訴える入所者が相次いでおり、全国で700人を超える症例が報告されている。
 1月9日現在、施設での感染症とみられる患者数は、北海道62、秋田54 、神奈川46 、大阪226、和歌山35、広島156、山口75 、福岡14 、宮崎52 となっている(朝日新聞調べ)。
 
 今、秋田県でも老人福祉施設何カ所かでノロウイルス感染が生じていることから急遽今月19日午後ビューホテルで研修会を行うこととなり、私に基調講演の打診が来た。物理的に引き受けることが困難であったので、自信を持って当院の感染制御医を推薦し、快く引き受けていただいた。
 私が勤務する病院でも一昨年、数10名の院内感染を含むノロウイルス感染者を出したが、その際、チーフとして保健所への迅速な連絡を始めとして重要な役割を担い、得られたノウハウをまとめ上げた実績を持つ。
 恐らく、他では聴けない貴重な講演になるものと期待できる。この研修会は一般方々も参加可能である。
 
 一方、いつもならピークを迎えているはずのインフルエンザは関西で若干あるが県内ではまだ発生の報告は殆どない。暖冬の影響が大きかったと思う。これから問題になってくるだろう。

     (2005.1.10)

 
(3)ノロウイルス猛威(1)、秋田県庁も庁舎一斉消毒  吐いたら「ハイター」
 本日午後は「新型インフルエンザ」関連で、医療機関としての準備状況確認のために秋田県医務薬事課員が来訪することとなっていた。私も面談の席に加わる予定であったが、正午頃突然来訪が中止となった。秋田市内の仕出し弁当のノロウイルスの件で庁内が騒然となっているため、とのことであった。
 食中毒対策は秋田市保健所の管轄であるから県庁が慌てているのも不思議だが、仕出し屋は2.000食も供給していたと言うから、他の保健所領域へも広がったのか?と考えていた。
 実は秋田県県庁で、当該の仕出し弁当を食べた職員のうち52人がノロウイルスによる食中毒が原因とみられる急性胃腸炎症状を発症したため、庁舎内で職員や来訪者が二次感染しないよう、庁舎を一斉消毒する事になったらしい。県では、県警など含む4庁舎のトイレや洗面所など100カ所以上を一斉に清掃、消毒する、とのことである。
 ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が今年は全国に拡大している。
 1989年の定点調査開始以来、過去最高となっている。青森と沖縄を除く45都道府県の293保健所管内で注意喚起の「警報」が出ている(厚労省)。大部分はノロウイルスが原因とみられ、症状は、下痢や嘔吐、腹痛などで、治療は一般的対症療法のみで積極的治療法はない。大概は数日で後遺症もなく改善するが、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者では、死亡例も出ている。秋田でも最近ノロウイルスによる感染性胃腸炎に罹患したあと高齢者が一人死亡している。
 ノロウイルスは、カキなどの二枚貝を十分に加熱調理せずに食べるなどで感染する。それ以上に重要なことは、患者の便や吐物などを介して容易に二次感染することであり、家庭内だけでなく、医療機関、保育園や高齢者施設などで病児を介護する母親や家族、福祉施設の従業員、医療機関の従業員の手指を介して次々と感染を起こすから極めて厄介である。私どもの病院でも対策に苦慮している。
 各保健所などは手洗いなどによる予防を呼びかけているが、この時期、各家庭でも漂白剤として流通している次亜塩素酸ソーダ製剤を消毒剤として用意して置くべきである。吐瀉物、便にはウイルスを大量に含むから捨てるものはビニール袋に密閉し、捨てられないものはまず消毒剤に浸すことが必要である。 
 私どもは、2年前にも院内でノロウイルス感染多発を経験したが、それ以降は「吐いたらハイター」と言い続けている。

     (2005.12.15)

 
(4)ノロウイルス猛威(2)、県内で1000人超!!
大館の食中毒はパンが原因?本当?
 県健康推進課は21日、県内では今年11月以降、ノロウイルスの感染者は1059人と発表した。県内では17年度の821人が最多だったから、かなりの数に上っている。原因は何だろうか?ウイルス自体の変異も疑われているが解明は進んでいない。
 二枚貝を介しての感染は有名であるが、最近のノロウイルスによる胃腸炎の原因に二枚貝は殆ど関係していない。殆どがヒトを介しての感染である。にもかかわらずマスコミはワンパターンに「二枚貝だ、牡蠣だ・・」と言い続けるものだから、業界は減収で大変な状況になっている。今こそ牡蠣を食べよう。ただし生食でなく、フライとか鍋とかで十分火を通す必要がある。社会は助け合いが必要なのだ。
 大館市の8小中学校の児童生徒ら約400人に急性胃腸炎症状が出た問題で、パンが原因と疑われている段階で私は地元の放送局のインタビューを受けた。どの様なパンが供給されているかも解らない状態であったが、調理パンを除くとパン自体から感染する可能性は考え難い、その判断には無理がある、とコメントした。
 一方、県は19日夕方、ほぼ同じ時間帯に13日の給食のパンによる食中毒と断定し発表した。パン等からウイルスは検出されなかったが、8校の共通食品の一つがパンで、工場の従業員1人の便からウイルスが検出されたため、原因食品と断定し、大館保健所は製造元を8日間の営業停止処分とした。パンは、前日に同社が学校給食用としてコッペパン、食パンを約1500個製造した。パンが原因なら焼き上げた後の袋詰め間にウイルスが付着したと言うことになろうが、どの過程で付着したかは解明されていない。
 焼き上げた後の製造工程が解らないので私も何とも言えないが、判断過程にスッキリしないものが残る。県は十分に検証して欲しい。同じ事を繰り返すことだけは何としてでも防止したい。私は秋田県新興感染症対策委員会の委員長でもある。その立場から県の担当部署に対して何らかのアクションが必要かな、と考えている。

     (2005.12.22)


(5)ノロウイルス猛威(3)県医師会「ノロウイルス対策相談室」発足で電話ひっきりなし
 県内のノロウイルス感染症は12月に入ってから急に増加した。
 本来であればこのような感染症の蔓延に関して県医師会感染症等危機管理対策委員会が何らかのアクションを起こすべきだろうが、事の推移が早くて対応し切れていなかった。
 まだ対応策を十分体得していない医療機関や施設から何度か対応策を相談されていた。このような方々を対象に予防対策、蔓延防止対策の実技指導を伴う講演会を開催することも考えたが、各保険所が対応しているとのことであったのでそれに任せることとした。
 県医師会としては先の理事会において「ノロウイルス対策相談室」を設置することとなり、私と2名の理事が担当する事になった。立場上私が主担当となり、対応できないときに他の担当にお願いすることとした。
 対策相談室設置のことが22日の地方紙に紹介されたが、反響は随分あった。22日は9時から15時にかけてひっきりなしに、約20本の相談電話がかかってきて、私は病院の仕事どころではない状態となった。
 相談の多くは中年女性で、家族が罹患しているが何時から登校して良いか、勤務して良いか、とか、夕べから家族の一人がお腹の調子が悪いがノロでしょうか?と言った質問であった。旅館業の方から浴室ではどんな注意が必要なのか?と言うのも来た。
 ノロに関しての基本的知識は結構家庭内まで浸透している様に感じられたが、実際の行動に結びつく知恵までは至っておらず、トイレの始末や台所での注意などを聞いてみればまだまだ問題がある様に思えた。
 22日は私は幸い外来担当が無く比較的時間調整が出来る日であったので、各々の電話についてはじっくりと指導した。これが来週も続くようなら外来等でとても対応しきれないが、新聞を見ての電話なので多分来週はあってもパラパラだろうと思っている。
 県医師会の相談室設置は10年ほど前の「O-157対策相談室」以来で、その時も私が担当であったが、それなりの意義はあったと言えるだろう。

     (2005.12.23)


(6)ノロウイルス猛威(4)余話 手荒れで物を落とす様になった
 今年は豪雪で開け、ノロウイルスで暮れる一年と言えそうである。
 ノロは幸い12月末になって勢いは衰えてきたように思える。ホッと一段落であるがまだまだ気を抜くことは出来ない。
 この間、私が担当している病棟でも数人の患者が罹患し,若い看護師達も何人か罹患した。私自身が回診や患者の処置を通じてウイルスをばらまく様であってはならじ、とディスポの手袋を着け、更に「一行為、一手洗い励行」を行ってきた。
 トイレは勿論、病室のドアも足で押し開け、ノブなどはペーパータオルを介して回し、更に手を洗う等、結構大変である。だから、この間手洗いの頻度は日に10数回にも及んでいる。幸い私自身は発症していないし、多分感染源にもなっていないだろう。
 最近目に見えて困っているのは、カルテとか書類を上手くめくれなくなったし、モノをよく落とすようになった事である。過度の手洗いによって手の荒れ、と言うか指先の脂分とか湿気が失われたためと思われる。
 ボールペン等の筆記用具、クリップ等はしょっちゅう落とす。万年筆を使うときは不用意に落とさぬよう気遣いを要する。外来等でカルテをめくったり処方箋や伝票を記載するのは量が多いだけに能率も落ちている。
 対策としてハンドクリームや保湿剤があるが、べと付いて不快である上に、逆に滑りが良くなってモノを落としてしまう。対策として水で湿らせたスポンジを机上に置いて使っている。今のところこれが一番良いようである。
 ノロウイルスは病院機能にも大きな影響を与えただけでなく、個々の職員にも大小の影響を与えている。今回のアウトブレークによって自然界のノロウイルスはかなり増加したと思う。これからは絶えず患者が発生すると懸念されるが、これからはインフルエンザも流行してくるから両者が一緒になれば大変である。それまでには何とかもっと沈静化させたいものだ。

     (2006.12.27)


(7)ノロウイルスの猛威(6)不特定多数の人が触る場所にはウイルスがいると思え
 
 
昨年11月から12月にかけて県内ではノロウイルスの食中毒・感染症が大流行した。
 そのためホテルや飲食店、給食関連などの食品関係業界、保育園や老人ホームなどの福祉施設や、病院や老健施設、学校などの施設では対応に苦慮している。
 当院も例外ではなかった。院内感染対策室の活躍もあって感染者数は新年になって急速に減少したが、未だに少数ながら感染者の報告を受ける。また、救急外来には急性胃腸炎症状を訴える患者が未だに多数受診している。 
 ノロウイルスは一般的には人の腸で大量に増殖し、人の手指を介して人から人へと感染し、食品が汚染されて感染する。シジミやカキは河川に流れ出たウイルスを腸内に溜め込んでいるため、これらを不十分な加熱処理状態で食べると感染し発症する。しかし、今期の大流行に貝類の関与は殆どみられなかった。しかし、風評被害は顕著であったようだ。私は年末年始に賭けて何度かカキ料理を作ってもらった。
 なぜ今期大発生したのか、まだ明快な説明はないようであるが、従来のウイルスは感染発症にホスト側の要因が大きいのでは?とされていた。これに血液型が関与しているとの説もあるが、真偽の程は分からない。しかし、今期流行しているGH4とされる遺伝子型ウイルスはより広範な人に感染するタイプらしい。要するにより広い感染力をもったウイルスであることも一因らしい。
 
 調理者を介しての感染も少なくなかったが、GH4型は不顕性感染が多く、ウイルスを排出しながら調理従事したことによるのではないか?とも考えられている。
 不顕性感染者が20%もいると言うことは、もうトイレとかドアノブとか万人が触る場所にはウイルスが付着している可能性があると言うことである。だから日常の手洗いが如何に大事か、と言うことになる。そう考えれば、もう従来のマイルドな衛生思想だけでは対応できない、と言うことになる。         

     (2007.03.14)

 
(8)ノロウイルスの猛威(7)ウイルスの感染力は4℃で60日間も保持される
 
ノロウイルス感染症の潜伏期間は平均36時間程度で、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱、まれに頭痛、悪寒、筋肉痛、咽頭痛などの症状がある。健康成人の症状は一過性で、2日間程度で改善するが、高齢者や乳児は長引いたり死亡することもある。
 発症は急激で、特に嘔吐はコントロールできないほど激しい。救急外来では急性胃腸炎の症状を訴えて来院した患者には予めビニール袋を配るが、それでも間に合わず床などに嘔吐する患者もいる。先日は救急担当の医師が吐物を浴び、ズボンや靴を廃棄していた。幸い、スタッフは感染しなかったようだ。トイレも間一髪間に合わなかった患者も時にいる。
 
 高齢者の診療施設、福祉施設等では身動きが不自由な患者が多いために特に大変で、嘔吐や失禁した患者の身の回りの世話をしたスタッフ、清掃をしたスタッフも高頻度に感染する。
 ノロウイルスと一般の細菌性食中毒と異なり、次々と伝播するのは、以下の理由によると考えられる。
■ 便や吐瀉物にはウイルスが無数に含まれ、感染力が強い。
■ 乾燥した場合、塵埃を通じて感染する。
■ ウイルスは消毒剤に抵抗性で、アルコールも1/100程しか効果がない
■ 20%近くが不顕性感染者で、この場合も発症者と同じ程度のウイルスを排出している。だから、知らず知らず感染源になっている可能性がある。
■ 物体の表面に付着したウイルスの感染力は4℃で60日間、20℃で21-28日間、37℃では1日維持される。
■ 感染予防は石ケンでの手洗いが基本中の基本である。当然手袋は必要で、一処置毎の交換が基本となる。
■ 吐物の取扱いは特に厳重にする必要がある。
■ 汚染された衣類とかはキッチンハイターなどの塩素系の殺菌剤に浸けて処理するか、熱湯、スチームアイロン、スチームクリーナーなどでの熱処理が有効である。通常の掃除機はウイルスを空中に撒き散らす恐れがある。
 
 今期の大流行によって莫大な量のウイルスが自然界にばらまかれたと思われる。これからはノロウイルス感染症は通年型の、感染経路不明の感染症として続いていく可能性があるし、病院・施設等では集団感染する可能性が高い。
 だから、特に医療関係者は医療技術と同様に感染症に対する知識と感染防御への行動様式を身につける事が求められる。

     (2007.3.15)



(9)ノロウイルス対策(8)  いつも迷う、水洗トイレのノブ  
 ノロウイルス感染症は昨年暮れから新年にかけて猛威を振るった。
 自然界に排出され、感染力を持ちながら残っているウイルス量はかなり増えたと思われ、これから恐らく通年型の感染症の位置を占めるものと思われる。激しい症状を出したか否かは別に感染者は2週間以上、時には一ヶ月以上も便にウイルスを排出し続けるとされる。
 昨日の救急外来にはこのウイルスによる食中毒と思われるそれらしき胃腸炎の患者が10数人受診した。これからもこの様な形で時々発症し続けるだろう。 食材自体にウイルスが含まれることは貝類が有名であるが、最近の食中毒はそれよりも調理の過程等でウイルスが手指を介して付着したと推定されるのが大部分である。
 激しい症状を出したか否かは別に、感染者は2週間以上、時には一ヶ月以上も便にウイルスを排出し続ける。不顕性感染者もかなりの数が居ると推定されるがそれを示す詳しいデータは無いようである。
 だから、不特定多数の人が出入りする場所のトイレは感染伝播の場になっていると推定される。恐らく、トイレに入ってから出てくるまでの間の各人の行動は幼少の頃からの習慣でバラバラであろう。しかし事が事だけに確かめようもない。
 私がいつも、心配しているのは水洗のノブの扱いである。
 いろいろなタイプのノブがあるが、タンク式の小さなノブはまず心配はない。問題なのは水道パイプに直結型の水洗トイレの、横に出ている10cmほどのノブである。高さから言って、サイズから言って微妙な場所にある。足で操作するのも不可能ではないからである。親しい男性の知人数名に聞いてみたら、足で押す人が二人いた。約半々であった。これではトイレ全体の清潔度は全く信用できないと言うことになる。この辺のところを大がかりに実態調査してはどうだろうか。
 とにかく、トイレで何かを触ったら手洗い、手洗いである。私は、トイレットペーパーを介して手で押しているが、正直言って足で押したい誘惑にも駆られる。清潔維持という面からは足で押すのが正しいように思えるからである。あのタイプはノブの場所、形を変えるべきだと思う。
 女性は、まさか足で押すことはなかろう、と私は思っているのでまだ誰にも確かめて居ない。私にとっては全く未知の世界であり、知りようもない。知るのも怖い気がする。だから、コメントできない。
                             

     (2007.4.23)



(10)ノロ対策の季節 次亜塩素酸ソーダの代用品はない
 ノロウイルスによる感染性胃腸炎が多発する季節になってきた。
 特に、虚弱な方々の収容施設、病院、老人保健施設、老人ホーム、幼稚園、障害者施施設等にとってノロウイルスは感染力が強いだけに頭の痛い問題である。当院でも感染制御部が頻回に院内学習会を開催し、院内各所に注意のポスター、トイレには手洗いのガイドを張って啓蒙に必死である。
 県医師会でも「ノロウイルス感染対策相談室」を開設し、主として私が担当して対応している。今年はまだ集団感染は県内で生じていないために平穏であり、4件の相談があっただけである。
 昨年は感染が各所で生じ始めていたために設置初日から一気に10数件の相談が集中し、私の診療業務にも支障が出たほどであった。
 ノロウイルス感染に対しての防御のコツは「手洗い」と「消毒」に尽きるがノロウイルスはエタノールでは効果が乏しく、液体石鹸による入念な手洗いがまず基本である。消毒に関しては「加熱」と「次亜塩素酸ソーダ」が基本という事になる。
 加熱は85℃、1分以上は必要である。
 「次亜塩素酸ソーダ」は一般家庭用では漂白剤として結構普及している。これを一定の基準に薄めて消毒剤として用いる。ところが施設等では収容者の安全のためにも結構取り扱いに注意が必要であり、独特の臭いがあることもあって、他の簡便な方法を模索しているようで、消毒剤に対する質問は結構多い。
 「安定化二酸化塩素」は強力な消毒効果を持つが、取り扱いが大変であった。この二酸化塩素をアルカリ剤に溶存させる方法が開発されてから取り扱いが簡便となり消毒剤、消臭、防腐剤として流通している。スプレー剤もあるのが魅力の一つであろう。
 この「安定化二酸化塩素剤」をノロウイルスの殺菌剤としてどうか、と言う質問は数件ある。確かに、製品を販売している会社のホームページ等にはノロウイルスに対する効用も記載がある。しかし、私が文献等から調べた範囲では客観的な評価は今のところ疑問である。厚労省のノロ対策ガイドラインの消毒の項にも消毒剤としては「次亜塩素酸ソーダ」一剤だけである。
 だから、この件についての私の説明は「安定化二酸化塩素剤は客観的データがないために代用品としての使用はお勧めできない」である。
 一方、「次亜塩素酸ソーダ」を薄めて手指の消毒に用いているとか、室内に噴霧していると言った誤った使い方をしている施設もあり、適正な使用をお教えした。

     (2007.11.23)



(11)ノロウイルスが猛威をふるい始めた 吐いたら「ハイター」処理を
 この12日、由利本荘地区の特別養護老人ホームで職員3名、利用者15名が下痢、嘔吐等の症状を呈している旨、保健所に連絡があり、95歳の方が13日死亡した。検便を行った4名全員からノロウイルスが検出された。
 12月に入ってから県内でノロによると思われる感染性胃腸炎患者が増加しており、福祉施設等6、保育園2、学校1の9施設で計208名の発生が報告されている。
 本年度の発生状況は既に18施設、467名(福祉施設等12、宿泊施設等2、学校2、保育園2)に達した。平成18年度は1989年の定点調査開始以来、全国的にも過去最高の発生率であり、県内では90施設、2076名(福祉施設等68、学校6、保育園・幼稚園6、宿泊施設等4、医療機関6)だったから、それに匹敵する急増である。
 県では、急遽、今月19日(水)14:00から県庁にて「施設におけるノロウイルス対策について」の講演会を行うこととした。講師は当院の菅原感染制御部部長である。
 昨年の今日あたりは、秋田県庁で、仕出し弁当を食べた職員のうち52人がノロによる急性胃腸炎症状を発症し、庁舎を一斉消毒した日でもある。更に一週間後には大館市で給食パンを介した(?)感染が起こっている。疫学的にもこの時期から急増すると言われているが、ここまで時期が一致したのは偶然だろう。
 ノロによる感染性胃腸炎はかつては冬期間の食中毒の代表で、カキなどの二枚貝を加熱調理せずに食べるなどで発生したものである。食中毒も勿論少なくないが、最近の散発的発症例は食品由来と言うよりは生活環境の中にいるノロを介して感染する。多くは感染経路が不明である。
 重要なことは、一度誰かが発生すれば患者の便や吐物などを介して容易に二次感染することであり、家庭内だけでなく、医療機関、保育園や高齢者施設などで病児を介護する母親や家族、福祉施設の従業員、医療機関の従業員の手指を介して次々と感染を起こすから極めて厄介である。
 各保健所などは手洗いなどによる予防を呼びかけている。
 この時期、各家庭でも衣類の漂白剤として流通している次亜塩素酸ソーダ製剤を消毒剤として用意して置くべきである。吐瀉物、便にはウイルスを大量に含むから捨てるものはビニール袋に密閉し、捨てられないものはまず消毒剤に浸すことが必要である。私は、身近な人が「突然吐いたらハイター処理を」、と語呂合わせをして言い続けている。
 ただし、この液を手指の洗浄に用いたり、室内に噴霧してはならない。使用時は手袋が必要である。

    ( 2007.12.14)


 
(12)ノロウイルスが猛威をふるい始めた(1) 2008年はちょっと早い
 毎年12月になるとノロウイルスによる急性胃腸炎が急増する。
 当院の救急外来にノロウイルスによると思われる急性胃腸炎症状の患者が増加ししている。まだ散発状態と思われるので新聞等では取り上げられていないが、当院の状況から見ると今年は若干流行の始まりが早いようである。
 当院ではここ数週間、流行期を迎えるにあたって感染制御部を中心にノロ対策拡大診療部会議や院内学習会を開催して職員に注意を喚起し、かつ、院内感染防止の具体的対策を再確認してきた。折りしも、先週末から嘔吐や下痢症状を持つ患者が院内に散発し始めたので、今週初頭から院内感染防止対策を強化している。外来患者の一部、入院患者の一部からノロウイルスが検出され、危惧が現実のものとなった。
 本日、当院の「公開メディカルカンファレンス」が開催され、市内に開業されているからも数人参加していただいた。2演題のうち一題は当院の感染制御部長による「県内および当院のノロウイルス検査の現状」であった。これも機を得た企画となった。
 県内2カ所の検査センターから提供された資料によると、平成19年度の県内の検体提出件数は約3.000件で、そのうち陽性率が約40%であることが示された。診療所や病院を含む多くの医療機関や老人保健施設から検体が提出されていたが、若干の差はあったが提出機関の別による差は明らかでなく、ほぼ同じような陽性率であった。
 この検査は健康保険対象外であり、検査は医療機関負担で行われる。1件あたり一昨年頃は12.000円前後、昨年から8.000円もすることからそう簡単には提出できない。だから、確定診断のために嘔吐や下痢など、それなりの激しい症状がある患者を選んで提出しているはずである。にもかかわらず、陽性率が40%というのは極めて低いと言わざるを得ない。
 何故、陽性率が低いのだろうか?と思う。
 陽性であった場合は診断に問題はないだろうが、検査で陰性の患者はノロウイルスを感染を否定できるのか? 流行期であってもノロウイルス胃腸炎は本当に半数以下なのか、検査提出時期の問題はありそうないし、検体採取もそう困難ではない。検査の感度と特異度は一体どの程度なのだろうか?などの疑問がわいてくる。
 不勉強にして知らないので調べてみなければならない、と思う。
                        

     (2008.11.18)



ご意見・ご感想をお待ちしています

これからの医療の在り方Send Mail