カルテが開示されます.でも、診察室での対話が一番大事
朝日新聞掲載記事


 最近、各方面で情報開示が叫ばれています.医療分野においても同様です.

 一昔前は必ずしもそうではなかった様ですが、最近は医師も患者さんに病状などを積極的に説明するようになってきました.それでもある調査によりますと、患者さんの半数程度しか医師の説明が十分だと思っていません.一方、医師の98%は患者さんに十分に病状を説明していると答えています.
 このギャップを埋めるために、日本医師会は本年1月1日からカルテやその他の診療情報を提供することにしました。提供するのは、外来や入院のカルテ、各種の検査結果、レントゲン写真などで、提供方法はカルテの閲覧、要約(まとめ)書の発行、コピーによる提供などです.ただし、「診療に役立てる」という目的で患者さん本人が希望した場合に限られます.
 カルテそのものは医療機関で管理すべきものですが、記載されている内容は患者さん自身に関する情報ですので、私は、希望する本人への医療情報の提供はとても良いことと思っています.時間は限られていますが診察の時に交わされる患者さんとの対話は豊富な方だと思っていますし、検査伝票は殆どの患者さんに、必要な方には処方箋や退院時総括のコピーもさしあげて来ました.
 ただ、コピーによるカルテの提供に関しては、本当の所、私はいろいろ心配しています。
 第一、私のカルテは字が乱暴ですし、文章もまともではありません.提供された方は読むのに困ると思いますし、私にとっては気恥ずかしい限りです.今後は患者さんも読めるよう、丁寧に、日本語で書かねばなりませんが、これは、私にとってかなり大変なことです。
 次に、例え読める様な字で書いたとしても、診療は常に時間に追われていますので、カルテにはポイントのみしか書きとめられません.従ってカルテのコピーから診療の内容を正しく理解していただくのは困難と考えられます.特に、診断や治療が難しい病状の患者さんの入院カルテには、命に関わるような重大な病名が沢山登場しますし、病気に至った背景因子、患者さんの性格とかも乱雑に記載されています.患者さんはもともと不安を抱えているものですが、カルテのコピーをみて誤解されたり、ショックを受ける可能性もあります.これは患者さんにとっても私にとっても不幸なことです.
だから、私はカルテのコピーの提供を希望された患者さんには、コピーを前に病状や私の考えを説明しながら別色のペンでいろいろ加筆してから差し上げようと考えています.
 医師会の診療情報の提供が架け橋になって診療室での患者さんと医師のコミュニケーションがより良くなることを期待していますし、これが提供の目的そのものです。患者さん方も是非疑問に思っていることなどを遠慮せずに主治医に問いかけていただきたいと思います。

     写真はイメージ画像です




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