新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)への対応
秋田県医師会版(第3報)

                秋田県医師会感染症等危機管理対策委員会
                     (文責:常任理事 福田光之)
                      2003/4/15

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目次
ここ数日の動き

医院や病院で医療相談を受けたとき,患者が来院したとき
秋田県のこれまでの対応(4/12現在)
(1)対策の検討・会議の開催  (2)情報提供
(3)医療提供体制の整備    (4)防疫体制の整備
県内においてSARS(=可能性例)が発生した場合の県の対応

秋田県内医療機関の現状と対応
1種感染症対応医療機関       2種感染症治療機関
SARS(=可能性例)が発生した場合の連絡先

県医師会の対応
県医師会感染症等対策委員会からの提言(4/7)
秋田県への提言       医療機関への提言

世界の患者数(4/14)
伝播確認地域(4/3)
 
WHOの対応(4/8)
日本の現状(4/14)
日本の関係各省の対応
外務省(4/3)  厚労省(4/11
SARS症候群の通報基準(4訂版4/8)考え方
○ 疑い例    ○ 可能性例
SARSへの対応について(厚労省発第7報改変)
管理指針
I 「疑い例」の外来での管理
II 「可能性例」の管理
III 「疑い例」「可能性例」との接触者の管理
IV SARSの可能性例に対する院内感染対策

検査および検体の取り扱い
検査材料の輸送
検疫所の対応の内容(4/4)

WHOのSARS管理指針
I.  疑い例の管理
II.  可能性例の管理
III.疑い例、可能性例との接触者の管理

 可能性例に対するWHOの院内感染対策ガイダンス

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ここ数日の動き

 SARSについて3003/4/12現在の状況をまとめた。

 ●未だ我が国内におけるSARS患者の発生はないが、万が一に備え、対応体制を整備しておく必要がある。
 ●現時点では確定診断の方法が未確立であり、可能性例は確定例と同義に扱う必要がある。
 ●今週からWHOではわが国の可能性例を報告することとし,4例が掲載された。ただし、いずれもその可能性が低い例とされている。

 ●厚労省は第一種感染症指定医療機関が確保されていない道府県に対し速やかに進めるよう要請している。

 ●一方では2種感染症治療病院を1種に格上げして対策を進める方針を提示、かつ、国立病院・療養所への対応を要請した。秋田県関係では国立療養所秋田病院、道川病院が対象となっている。結核病床の利用も提起した。

 ●国民の不安感が強いことから、保健所等の健康相談窓口の体制を強化、周知を要請している。

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患者への対応(秋田県版)


SARSに関する医療相談を受けたとき

●かかりつけ医を始め全医師が対応すべきであるが,各地域の保健所,秋田県健康対策課,秋田県医師会へ相談するよう提言してもよい。

●症状が軽微で風邪症状のレベルであれば,自宅で経過観察をする。その際,
(1)手洗いの励行等の衛生に努め、人ごみや公共交通機関使用を避け、回復するまで自宅にいるよう指導する。

(2)呼吸器症状が悪化すれば直ちに医療機関を受診するよう指導し帰宅させる。(受診にあっては、予め医療機関に連絡する。)

●医療機関を受診する際には必ず事前に連絡を入れてから受診するように徹底する。

診療所での対応について

●診療所の入り口玄関先等にあらかじめ掲示等をしておき、このような状況の患者には申し出てもらう。(掲示のサンプルは県医師会より送付済み)

●流行地からの帰国者で発熱等の症状がある患者の医療は原則的に地域の病院が対応する。有症状の患者は速やかに地域の病院に紹介するのが望ましい。

●診察する際にはN95マスク、無ければ外科用マスクを付け、接触感染、空気感染に対する予防策をとる。(N95マスクは現在国際的に品薄状態にあり5月下旬まで入手困難)

●地域の病院に紹介する際には、必ず事前に電話連絡をする。


地域の病院での対応(各病院への説明会は4月17日に予定されている)

●病院ではあらかじめ用意した手順・方法で患者を誘導し、診察する。
外来経過観察の場合は、変化があったときの対応について十分に説明する。

●症状によっては第2種感染症指定医療機関に紹介する。その場合、必ず事前に電話連絡をする。

地域の医療機関で「可能性例」と診断された場合

●確定診断の方法が未確立の現状では,可能性例は「SARS」と見なして受入病院に搬送して治療にあたる。この場合の搬送については、保健
所の患者搬送車で対応する。

●患者が長距離の搬送に耐えきれない状態の場合、あるいは患者が多数発生し、「SARS」受入病院のみで対応が出来ない場合は、第2種感染症指定医療機関が治療にあたる。

●患者が多数発生し、第2種感染症指定医療機関で対応が出来ない場合は、結核病床を転用し治療することも考慮する。

●上記2.3項目の場合の搬送については、救急車または保健所の患者搬送車、病院の患者搬送車で対応する。(可能か否か、消防機関と対応の協議が必要)。

●搬送不能の場合は、当該病院において個室管理のもとで感染防止対策を十分に講じながら、治療にあたる。

(患者が多数発症した際の診療体制は適宜感染症部会、関連医療機関を対象とした協議会を開催し検討する。)


「疑い例」及び「可能性例」の検査

1.一般検査は原則的に病院検査部において,通常の病原体取り扱いに準じてバイオセーフティレベル(BSL)2で行う。

2.秋田県衛生研究所において、迅速診断法(連鎖球菌など一般細菌、レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、その他について)を行う。

3.国立感染症研究所には秋田県衛生研究所から検体を送付する。

4.喀痰と便がコロナウイルスの検出に有用とされている。

5.検体搬送用の容器は各地区の保健所に配布されている。採取された検体は保健所で秋田県衛生研究所に届ける。

6.検体の採取方法、密閉方法等はSARSへの対応(厚労省発第7報 本稿の後半にも収録)



秋田県のこれまでの対応(4/12現在)


(1)対策の検討・会議の開催

@健康対策課内協議、関係課との協議、県医師会等への協力要請。
A関係各課と緊急連絡会議(4月7日〕
B県医師会感染症対策委員会と情報交換(4月7日)、
C保健所健康・予防課長会議(4月8日)
D県保健対策協議会感染症対策部会(4月10日)
ESARS対策に係わる連絡会議(4月12日)

(2)情報提供

@情報提供
 疾患情報を県ホームページに掲載。
 海外渡航着用パンフレット等により情報提供。

A相談窓口の設置(健康対策謀、各保健所)
 健康対策課、各保健所に相談窓口を設置(4月6日〕
 健康対策課では、休日も対応。
 (相談実績)相談件数:12件(4月10日まで)

B関係諸機関への情報提供
 厚労省からの情報を県医師会、関係各課所(部内各課、総合防災課、生活衛生課、国際交流課、衛生科学研究所、各保健所)及び市町村に情報提供。

 要介護者及び障害児(者)等の感染防止を図るため、関連施設に対し情報提供。施設内の感染防止対策の徹底を依頼。

(3〕医療提供体制の整備

@県医師会等に対し、流行地域からの帰国者等の医療について要請、医療機関における感染予防措置の徹底を依頼。(4月4日、4月6日〕

A流行地域からの帰国者等で発熱等の症状がある者の医療提供は、第2種感染症指定医療機関(9病院)が中心となり地域の病院があたる。

BSARSと診断された者(=可能性例)の治療は個室管理と独立空調管理ができる秋田組合総合病院、由利組合病総合院で治療する。(6床確保したが、集団発症の際には第2種感染症指定医療機関、国立療養所、結核病床の利用も考慮)

C第2種感染症指定医療機関及び秋田大学医学部附属病院、秋田赤十字病院、市立秋田総合病院、中通総合病院の13病院と緊急の連絡会議を開催。(4月12日〕

D他の医療機関については、感染防止研修会において周知を図る。(4月17日15:00View Hotel )

(4)防疫体制の整備

@SARSと診断された者(=可能性例)を搬送する従事者の感染予防を図るため、大館、秋田中央、横手保健所に防護服、防護用マスク等を配布。

A地域における防疫体制を整備するため、各保健所に防護用マスク等を配布。

B病院内感染、搬送時の二次感染防止の徹底を図るため、仙台検疫所から技術的指導をお願いした。医療関係者、保健所職員、搬送関係者の研修会を開催する。(4月17日 View Hotel   15:00-17:00)


SARS(=可能性例)が発生した場合の県の対応


(1)情報の収集・提供
 SARSに関する最新情報、県内の発生状況、県民等からの相談件数及び内容・関係諸機関における対応状況等の情報の収集・提供を行う。

(2)危機管理対策本部設置の要請
 県内において、SARS(=可能性例)が発生した場合は、秋田県危機管理対策本部の設置を要請する。

(3)搬送体制
 医療機関からSARS(=可能性例)が発生した場合は、大館・秋田中央一横手保健所に配備している搬送車(3台)により秋田組合総合病院又は由利組合総合病院へ搬送する。

第2種感染症指定医療機関
鹿角組合総合病院(鹿角市〕
大館市立総合病院(大館市)
公立米内沢総合病院(森吉町)
山本組合総合病院(能代市〕
秋田組合総合病院(秋田市〕  018-880-3000
由利組合総合病院(本荘市) 0184-27-1200
仙北組合総合病院(大曲市〕
公立横手病院(横手市〕
雄勝中央病院(湯沢市〕

4.相談窓口、SARS(=可能性例)発生時の連絡先


(1)SARS重症急性呼吸器症候群の相談窓口について
【相談窓口開設時間】
 平日:08:30?17:15(健康対策課、各保健所)
 休日:08:30?17:15(健康対策課)

【相談窓口電話番号】
 県健康対策課      018-860-1421?9
 大館保健所    0186-52-3952
 鷹巣保健所    0186-62-1165
 能代保健所    0185-52-4331
 秋田中央保健所     018-855-5272
 本荘保健所    0184-22-4122
 大曲保健所    0187-63-3405
 横手保健所    0182-32-4005
 湯沢保健所    0183-73-3524

●秋田県医師会でも相談を受ける
          (018-833-7401担当 福田)

2)SARS(=可能性例)が発生した場合の県関連の連絡先
     秋田県健康対策課 018-860-1424

日中、夜間、休祭日
各地の保健所-------自動転送システムあり

秋田県健康対策課(当面 祝祭日、土日も職員が待機)

緊急時に上記がつながらないとき担当者に電話を入れる
柳原主幹 018-834-6748    090-9745-9775
石井主査 018-832-4175    090-5186-2997
板波課長 018-868-6067    018-823-4970

3)SARS(=可能性例)が発生した場合の診療
入院医療を原則とする。

秋田県内医療機関の現状と対応

1種感染症対応医療機関;なし。

2種感染症治療機関
●現在、9病院が指定。しかし、「新感染症」に対応できる設備を有していない。由利組合総合病院は陰圧の病室や設備を有する。

●結核対応の陰圧の病室は国立療養所道川病院、市立秋田総合病院、公立米内沢病院にある。SARSの受け入れは集団的発症の際に考慮する。

県医師会の対応

●情報収集と各郡市医師会感染症対策担当者に情報を提供中。
●各会員には郡市医師会を通じて伝達。(病院には県より保健所を通じて情報が提供されている。)
●ホームページを用いて会員、医療従事者に情報を提供する。
●ホームページを用いて一般、県民に情報を提供する。
●秋田医報に情報を掲載する。
●県医師会感染症等危機管理対策委員会を開催し、医療体制構築に関して検討。
●電話相談等に対応する。


県医師会感染症等対策委員会からの提言(4/7)


秋田県への提言
1)県はSARS流行地域に最近渡航した住民に対し、特に医療機関受診前の連絡に関する情報提供を徹底して欲しい。
2)県は検疫関係部署に業務の徹底をはかるよう働きかけ、渡航者に対し情報提供を徹底して欲しい。
3)県はSARSの診療体制構築を可及的に早期に構築して欲しい。また、感染症の危機管理上必要な設備と機能は病院単位での構築は困難である。県はその体制を構築すべきである。

医療機関への提言
4)各医療機関はSARS対策責任者あるいは対策チーム等を設け、各医療機関の機能に応じた対策の検討を早急に進めるべきである。
5)各医療機関の入り口等に受診や相談に関する看板やポスター等を掲示し、感染者または疑いの方々を迅速に別室で診察するなどの対応する必要がある。
6)各医療機関では医療関係者への感染を防ぐ為に標準感染予防策(手袋、マスクの着用、厳重な手洗いなど)を実施すること。

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世界の患者数(WHO4/11発表)


●2960人、死亡119人、回復者数1337人。死亡率は3-4%、約半数が中国広東省に分布。
●4月11日からWHOは各国の報告数として(1)否定された例を除いた累積報告数並びに(2)当日の新規報告数を採択した。我が国の可能性例数(専門委員会で否定された数を除く)が計上される。


伝播確認地域(WHO  4/3発表) 

トロント、シンガポール、広東省、山西省、香港、台湾、ハノイ
 

WHOの対応(4/8)


●WHOは中国・広東省と香港への渡航を延期を求めた世界規模の勧告を出した。自由な渡航は、感染拡大の原因になりかねないため。感染症対策で広域を対象に渡航延期の求めは極めて異例の措置。
●今後、当該地域を出国する際に、発熱等の症状があれば、航空機等への搭乗を延期される可能性がある。
●中国は広東省へWHOが調査に入ることを4/3許可した。医学的疫学的知見の進展が期待できる。4/7調査団は一旦作業を終了したらしい。
●コロナウイルスである可能性はほぼ確実。動物からの感染か?人への感染として従来にないタイプ。
●インフルエンザの様な空気感染は否定的で、飛沫感染の可能性、体液や手指からの接触感染の可能性が高い。

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日本の現状(4/13現在)


疑い例は34例、可能性例11例。半数以上否定され、他は観察中であるが可能性は低い。
確定症0例。

今週より可能性例はWHOに報告される。4例が報告されたが可能性は低い。
わが国でも発症者が居るとの誤解を生む可能性があるので注意のこと。


日本の関係各省の対応


外務省(4/3現在):
WHO勧告の後「注意勧告」から「伝播確認地域への渡航の是非検討」にランクを上げた。

厚労省(4/8現在):
法的にSARSを「新感染症」と位置づけた。
ホームページ(県医師会ホームページからリンク)上で情報提供。
各都道府県に医療体制確立を求めている。

国立病院・療養所に対し患者の受け入れ要請した(4/8)。
 秋田県では国立療養所秋田病院(本庄市)道川病院(岩城町)が対象となっている。
 一般病床の場合
 1)病床は個室を原則に
 2)個室が不足している場合で、可能性ありと診断された複数の患者を入院させる場合は独立した空調設備の上で同室でも良い。
 陰圧病床を有する結核病床の利用の場合
 1)結核患者とSARS患者を同一病棟内に収容しない。
 2)結核患者を転院させ、SARS患者の治療に当たることは可能。排菌量が多い場合には個室管理。
 3)転院等が出来ない場合はSARS患者の受け入れは困難。


SARS症候群の通報基準考え方(4訂版4/8)

             ----改訂されたので注意


 「疑い例」「可能性例」は医師から都道府県知事への届出の対象
 
○ 疑い例
2002年11月1日以降に以下の全ての症状を示して受診した患者で
●38度以上の急な発熱がある者
●咳、呼吸困難感などの呼吸器症状

 かつ、以下のいずれかを満たす者
●発症前10日以内に、原因不明のSARSの発生が報告されている地域へ旅行した者
●発症前10日以内に、原因不明のSARSの症例を看護・介護するか、同居しているか、患者の気道分泌物、体液に触れた者

○ 可能性例 (コメント:確定診断が出来ないので=診断例と考えるべき--福田)

疑い例であって、
●胸部Xpで肺炎、またはARDSの所見を示す者、
または
●原因不明の呼吸器疾患で死亡し、剖検によりARDSの病理学的所見を示した者



SARSへの対応(厚労省発第7報)(福田が改変)


管理指針
I 「疑い例」の外来での管理


1.SARS(渡航歴、発熱、呼吸器症状)を心配されている患者には、あらかじめ電話連絡等を入れてもらうか、速やかに受け付けなどに申し出てもらう(患者への注意書き等で掲示しておくことが望ましい-----県医師会よりサンプル送付済み)。
 マスク(外科用でよい)を着用してもらい、出来るだけ他の患者と接触しないような隔離室・個室等の場所に誘導する。以後、疑いが晴れるまでは院内では必ずマスクを着用

2.診療に当たる医療従事者は接触感染及び空気感染に対する予防策をとり、N95マスク(なければ外科用マスクで良い)を着用する。

3.(1)発熱、(2)咳又は呼吸困難感、(3)伝播確認地域への発症前10日以内の旅行歴又は居住歴があるか確認する。

4.上記3点をみたす「疑い例」であると考えられた場合にはすみやかに胸部レントゲン撮影、血球検査(CBC)、生化学検査、インフルエンザ等の可能な迅速診断法を行う。この際、病原体検査用の検体採取等を行う。

5.胸部レントゲン写真に異常所見が無い場合は、
(1)マスク(外科用又は一般用)着用、手洗いの励行等の個人衛生的な生活に努め、人ごみや公共交通機関の使用をできるだけ避ける。回復するまで自宅にいるよう指導する。
(2)呼吸器症状が悪化すれば直ちに医療機関に連絡した上で受診するよう指導して、帰宅させる。

注)    帰宅させる際、患者に以下の通り説明する。
(1)    発熱後5日を経て症状の悪化がない場合、SARSの可能性は少ない。
(2)    発熱後10日を過ぎれば、通常心配ないと考えられる。


6.胸部レントゲン写真で、片側、または両側性の肺浸潤影を認めた場合は、「可能性例」として対応する。


II 「可能性例(=診断例と考えるべき)」の管理

1.可能性例はSARS治療病院への入院を原則とする。

2.病室は個室を原則とする。病室は陰圧、独立した空調設備である方がより望ましい。個室が不足している場合は、SARSの可能性例と診断された複数の患者を同室に入室させ入院とする。

3.以下の臨床検体を採取し、既知の異型肺炎の病原体感染を除外する。
(1)病原体検索用の検体;咽頭拭い液、血清、尿、(便)
(2)一般検査項目;CBC, CPK, ALT, AST, BUN、電解質、CRPは必須
(3)血液培養
(4)状況に応じて、気管支肺胞洗浄液

4.通常の肺炎(異型肺炎を含む)に対する治療および臨床症状に応じた治療を開始する。(飛沫を生じる可能性のある治療あるいは処置には特別の注意を払い、これらが必要な場合には、適切な感染予防措置を講ずること)

5.SARSにおいては多数の抗菌薬が試用されてきたが、明らかな効果のあるものはない。海外では、ステロイド併用あるいは併用なしで静注用リバビリン使用の報告があるが、明確な効果は証明されていない。

6.臨床状態の改善をみた場合、個々の症例により退院時期を決定する。

(注)臨床経過、検査その他によりSARS以外の疾患であることが説明できる場合、標準の抗生剤治療で改善する等、病状の改善を医師が認めるものについては、SARSの可能性は低い。


III 「疑い例」、「可能性例」との接触者の管理
 接触者とは、SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」の患者が症状を呈している間に、濃厚な接触をもった者とする。濃厚な接触とは、「疑い例」あるいは「可能性例」のSARS患者の介護、同居、又は体液や気道分泌物に直接触れた場合を言う。

1.SARSに関する情報を提供する。
2.症状がない場合は、日常の行動を続けてよい。
3.発熱や呼吸器症状が出た場合は、すみやかに医療機関に連絡し、受診すること。
4.その際は「疑い例」「可能性例」に準じた取り扱いをすること。


IV SARSの可能性例に対する院内感染対策
 SARS症例に対しては、空気、飛沫、接触感染への予防措置を全て含めた、バリアナーシング手技(注:病原体封じ込め看護)が推奨されている。

1.医療機関にインフルエンザ様の症状を呈する患者が受診した場合、待合室で他の患者への伝播を最小限に止めるため、担当看護師は速やかにその患者を、出来るだけ他の患者と接触しないような隔離室・個室等の場所に誘導する。SARSが否定されるまで、患者には外科用マスクを着用させる。

2.SARS可能性例は次の優先順位に従って病室に入院させる。
1.ドアが閉鎖された陰圧の病室
2.手洗い、風呂を備えた個室
3.独立した給気と排気システムを持つ大部屋など

 (可能であれば、SARSの疑いで検査を受けている患者と、診断が確定した患者は同室にしない。)

3.可能な限りSARSの患者には使い捨て医療器具を用いる。再使用する時は、製造業者の仕様書に沿って消毒する。器具の表面は細菌、真菌、ウイルスに有効な広域の消毒剤で消毒する。

4.患者の移動は可能な限り避ける。移動させる必要が生じた場合、飛沫の拡散を避けるため、外科用マスクを着用させる。SARS可能性例または疑い例患者の病室に入る全ての面会者、スタッフにN95マスクを着用させる。

5.手洗いが感染予防のためには重要であり、手袋を使えば手洗いは不要と考えてはならない。どのような患者であっても接触した後、病原体に暴露される可能性のある医療行為を行った後、および手袋をはずした後も手洗いする。手洗いできない場合には、アルコールを含む手指消毒剤を用いる。看護師は全ての患者の看護を行う際には手袋を着用する事が推奨される。手袋は、患者毎に、または患者の気道分泌物に汚染される可能性がある酸素マスク、酸素チューブ、経鼻酸素チューブ、ティッシュペーパーなどの物品に触れた後は必ず交換する。

6.患者の気道分泌物、血液、その他の体液の飛沫や飛散が発生する可能性のある処置や看護の際には、N95マスク、耐水性ガウン、頭部カバー、ゴーグル、顔面カバー等を使用する。SARSの患者に付き添う場合にあっても同様とする。

7.いかなる医療廃棄物の取り扱いにおいても、標準予防策を適応する。全ての医療廃棄物の取り扱いの際には、紛れ込んだ注射針などによる外傷に注意する。医療廃棄物の入ったゴミ袋、ゴミ箱を取り扱う場合も、手袋と防護服を着用し、素手では取り扱わない。なお医療廃棄物はバイオハザードが印された漏出しない強靱な袋、ゴミ箱に入れ、安全に廃棄する。


検査および検体の取り扱い

1.「疑い例」及び「可能性例」の検査は、原則的に、病院検査部もしくは地方衛生研究所において、通常の病原体取り扱いに準じてバイオセーフティレベル(BSL)2で、既知の肺炎を起こす(異型肺炎含む)病原体について一次スクリーニングを行う。

 これには、一般細菌培養、迅速診断法(連鎖球菌など一般細菌、レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、その他状況に応じて行う)、血清学的方法(マイコプラズマ、クラミジア)を含む。

2.ウイルス分離が可能な検査室ではウイルス分離を行う。ウイルス分離を行う場合には、SARS病原体の危険度レベルが未確定であるので、BSL3施設内においてレベル3に準じて対応する。
3.国立感染症研究所ウイルス第三部第1室では、上記1、2以外のSARSに関する特異的検査を行う。

検査材料の輸送 (略 まだ現実味がない→厚労省HP 第7報参照)


SARS感染症法上の取扱
●伝染性の未知の疾患であるSARSについては「感染症法」に規定する新感染症として取り扱う。

検疫所の対応の内容(4/4)
1.香港、広州(広東省)から本邦へ航空機を運航する航空会社に対し、質問票を配布し、航空機が到着後、検疫ブース内等で質問票を回収し、その際、別紙「健康カード」を必ず配布する。
2.回収された質問票の記載内容に「発熱、のどの痛み、激しいせき、呼吸困難」の何れかの欄に該当する旨の記載がされている場合は、健康相談室にて医師の相談を受けるよう奨める。
3.健康相談の際、別途連絡する基準に該当する場合は、直ちに厚労省に報告し、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関等の検疫所長が適当と認める病院に搬送する。
4.船舶において(略)。


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WHOのSARS管理指針
I.疑い例の管理

1.SARSを疑わせる症状を呈する患者は、すみやかに指定された診察室・病室へ誘導する。
2.患者に外科用マスクを着用させる。
3.詳細な病歴、旅行歴、および過去10日間の接触者に発病者がいないかも含めた接触歴を聴取する。
4.胸部Xpを撮影し、血球検査(CBC)を行う。
5.胸部Xp写真に異常所見が無い場合は、
(1)手洗いの励行等の衛生に努め、人ごみや公共交通機関使用を避け、回復するまで自宅にいるよう指導する。
(2)呼吸器症状が悪化すれば直ちに医療機関を受診するよう指導し帰宅させる。(受診にあっては、予め医療機関に連絡する。)
(3)間質浸潤の有無を問わず、片側、または両側性の浸潤影を認めた場合は、可能性例として対応する。

II.可能性例の管理
1.個室、または個室が不足している場合は、SARSの可能性例と診断された患者同志を同室に入室させる。
2.以下の臨床検体を採取し、既知の異型肺炎の病原体感染を除外する。
(1)咽頭スワブ検体と寒冷凝集素(ワイル?フェリックス反応、ヴィダ?ルテストなど)
(2)血液培養と血清学検査
(3)尿
(4)気管支肺胞洗浄液
(5)場合により剖検
3.検体は隔日に採取する。検査は指定された研究施設(注 自治体と結核感染症課で指定する施設)で行う。検体はP3設備を有する施設内で検査すること。
4.CBCは隔日に観察し、胸部Xp検査は症状により必要に応じて繰り返す。
5.臨床症状に応じた治療を行う。
付記; 現在までの知見では、広域の抗生物質がSARSの進行の抑制に有効であったと証明されていない。

III.疑い例、可能性例との接触者の管理
1.不安の除去に努める。
2.氏名と接触者の詳細を記録する。
3.発熱や呼吸器症状が出た場合の対応を以下のように指導する。
(1)すみやかに医療機関に連絡すること。
(2)医療機関から指導された日数は、出勤しない。
(3)医療機関から指導された日数は、人ごみを避ける。
(4)同居人、知人との接触は最小限に留める。


可能性例に対するWHOの院内感染対策ガイダンス
●WHOはSARS症例に対して、空気、飛沫、接触感染への予防措置を全て含めた、バリアナーシング手技(注:病原体封じ込め看護)を強く勧めている。

●医療機関にインフルエンザ様の症状を呈する患者が受診した場合、待合室で他の患者への伝播を最小限に止めるため、担当看護師は速やかにその患者を、指定された別室に誘導する。SARSが否定されるまで、患者には外科用マスクを着用させる。
●SARS可能性例は次の優先順位に従って病室に入院させる。
1.ドアが閉鎖された陰圧の病室
2.手洗い、風呂を備えた個室
3.独立した給気と排気システムを持つ大部屋など
●独立した空調がない場合は空調を止め、換気を良くするために外に面した窓を開ける事も推奨される。
●可能であれば、SARSの疑い患者と、診断が確定した患者は同室にしない。
●可能な限りSARSの患者には使い捨て医療器具を用いる。再使用する時は、製造業者の仕様書に沿って消毒する。器具の表面は細菌、真菌、ウイルスに有効な広域の消毒剤で消毒する。
●患者の移動は可能な限り避ける。移動させる必要が生じた場合、飛沫の拡散を避けるため、外科用マスクを着用させる。
●患者が我慢できるなら、結核など伝染性の高い呼吸器疾患の予防に頻用されるN95マスク使用が望ましい。
●SARS可能性例または疑い例患者の病室に入る全ての面会者、スタッフ、学生、ボランティアにはN95マスクを着用させる。N95マスクに比較すると外科用マスクの有効性は低い。
●手洗いが感染予防のためには最も重要。手袋を使えば手洗いは不要と考えてはならない。どのような患者であっても、接触した後、病原体に暴露される可能性のある医療行為を行った後、および手袋をはずした後、も手洗いする。
●手洗いできない場合には、アルコールを含む手指消毒剤を用いる。
●看護師は全ての患者の看護を行う際には手袋を着用する事が推奨される。手袋は、患者毎に、または患者の気道分泌物に汚染される可能性がある酸素マスク、酸素チューブ、経鼻酸素チューブ、ティッシュペーパーなどの物品に触れた後は必ず交換する。
●患者の気道分泌物の飛沫や飛散が発生する可能性のある処置や看護の際には、耐水性ガウン、頭部カバーを使用する。
●血液、その他の体液が飛び散る可能性がある場合、さらには、ゴーグル、顔面カバーも必要になる。
●血液、その他の体液が飛び散る可能性がある場合、空気感染が生ずる可能性がある場合、スタッフは常にマスクを着用する。
●SARSの疑い例、可能性例の患者に付き添う場合、N95マスクのように0.3μmの粒子を防護できるフィルターを使用する。
●いかなる医療廃棄物の取扱いにおいても、標準予防策を適応する。
●全ての医療廃棄物の取扱いの際には、紛れ込んだ注射針などによる外傷に注意する。
●医療廃棄物の入ったゴミ袋、ゴミ箱を取り扱う場合も、手袋と防護服を着用し、素手では取り扱わない。
●なお医療廃棄物はバイオハザードが印された漏出しない強靱な袋、ゴミ箱に入れ、安全に廃棄する。

WHOの「SARS制圧宣言」と秋田県、秋田市がとるべきSARS対応


 中国を中心に猛威を振るったSARSは減少しつつあり、WHOはこのほど、事実上の制
圧宣言を出した。厚労省は冬に備え対策を継続すると言うが、世界を揺るがせた感染
症がピークを超えたという報道に一安心した人は多いであろう。しかし、医療関係者
は恐らく複雑な気持ちでこのニュースに接したと考えられる。
 わが国では、感染者は一人もいないが、これはたまたま運が良かっただけであり、
今後も気を緩めるべきでない。SARSコロナウイルスの性質上、夏場に発生する可能性
は一段と少なくなるであろうが、この時期にこそ次に備えての危機管理対策を遂行す
べきである。

  先ず、根本的に重要なことは、「厚労省の感染症危機管理対策の進め方は根本的
に間違っている」事を認識する事から始めなければならない。省の方針決定にはわが
国の先進的感染症対策を担う医療機関や学者が深く関わって作成されているが、あく
までも感染対策を備えた施設の論理でしかない。一般の医療機関に到底適応は出来な
いものである。

 今月上旬、県はSARS感染の疑いがある患者を初期診祭する医療機関を県内13の総合
病院に限定したが、これはあくまで厚労省の通知に沿った過渡的措置でしかない。こ
の13病院は何れもSARSを引き受けるに足る設備、マンパワーを全く備えていない一般
的医療機関である。初期診療を引き受けたのは、地域の患者を治療しなければならな
いと言う強い使命感だけであり、各病院では医療従事者、一般愚者への二次感染防止
対策に頭を痛めている。更に、生じるであろう風評被害は病院に壊滅的影響を与えか
ねない。この様な対策で良しとする考え方は到底看過できない。

 SARS対策の根本は隔離である。従って、SARS感染の疑いがある患者を一般の医療機
関に入れるべきでなく、別の施設で診療し、経過観察をすることに尽きる。
 秋田県、中核市である秋田市は医師会と連携のもと、疾患の特徴に沿った秋田方式
のSARSの対策を進めるべきである。

                                                     2003/6/22

        SARS   Q&A
                      秋田県版(AKT
放送原稿から)2003/4/25


SARSってどんな病気??
 感冒の原因ウイルスとして考えられているコロナウイルスの感染症と言うことがわかりました。ただ,今回流行しているのは全く新しいタイプのコロナウイルスで「SARSウイルス」と名前が付けられています。

どんな症状か。
 症状はインフルエンザと似ています。突然の発熱、筋肉痛、関節痛他が現れ,そのうちの一部の方が肺炎を生じます。肺炎を生じると呼吸困難などの症状が加わります。

 ただし,この病気は流行地域からここ10日間ほどの間に戻ってきた方々だけですので一般の県民のみなさんは何も心配はいりません。

感染ルートは??
 まだ完全には解っていませんが、患者さんの咳とかに伴って排出される飛沫の吸引,飛沫や分泌物を手に付けて鼻や口に運ぶことから主に感染すると考えられています。
 ですから感染予防の基本は手洗いであり,マスクも若干は効果あると言うことになります。

年齢、性別など感染しやすい人は??
 特に特徴はありません。感染した患者さんの側で過ごした方々が主に感染しています。その中では子供には比較的少ない印象を受けています。

感染した場合の対処法は
 まずこの疾患自体はそれほど恐ろしいものではありません。大部分は発熱の段階で自然治癒します。従って,軽い症状の場合には医療機関と連絡を取りながら自宅安静で様子を見ていただきます。

 その場合,家族や周囲に感染させない様に配慮が必要ですので,症状があるときには出歩かず,身の回りのことはできるだけ自分で処理すべきです。
 症状がひどくなってきたときや,呼吸困難等が出てきたときには入院で治療することになりますので医療機関に相談ください。

心配になったらどうすればいいのか??
 10日間ほどの間に伝播地域から帰ってきた方で体調がおかしいと思ったら、とにかく医療関係者に相談することです。かかりつけ医、保健所、医師会、地域の病院などで対応いたします。
 また,病院を受診するときは必ず電話連絡をしてから受診してください。玄関先で患者さんを迎えて別室で診察します。
 心配だからと言って決して勝手に行動しないことです。

効果のある予防法は(一般のマスクはどれだけ防げるのか)
 マスクではウイルスの吸引を予防することはできませんが,手で鼻や口を不用意に触れないようにするなど,ある程度の効果はあります。

 だから
SARS患者と接触する機会が少ない一般の方々は、花粉症やインフルエンザの予防に用いられている通常のマスクの着用でもまず良いと考えられます。

 なお、話題になっているN95マスク、外科用マスクは、医療現場で患者さんに濃厚に接触する医療従事者等が、適宜使用するためのもので、一般の人が日常的に用いる必要は全くありません。

最後に県民の皆さん方に
 まだ日本には一人も確定した患者さんはおりませんから一般の方々は現状では全く心配いりません。

 また、秋田県では医療体制は十分整っていますのでそれほどご心配されなくて良いと思います。

 私ども医療関係者が一番心配しているのは病気そのものではなく,住民の方々が不安になってパニック状態になることです。それを防ぐためには、SARSについて正確な知識を十分に持つことです。まだ心配しなくて良いうちにSARSについて新聞、TVなどを参考にいろいろ勉強しておいてください。




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