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インフルエンザ

インフルエンザ流行2015 まとめと感想

インフルエンザ流行2015(1) 今季の流行は早かった
 秋田県の今季のインフの流行はれ雨年に比較して早かった。
 県の感染症情報センターのデータによると、12月末から1月初旬にかけて定点医療機関の41.87で早々に警報基準をの30人を突破した。観測史上3番目の流行状況になっている。ただ、最近は流行がやや下火になりつつある。
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(感染症情報センターのHPより)

 本年のインフルエンザ様疾患(集団カゼ)とインフルエンザ集団感染は以下のようになっている。
??本年のインフルエンザ様疾患(集団カゼ)に対する措置状況は2月15日現在、保育園・幼稚園・学校の累計施設数204、休校・休園14、学年閉鎖98、学級閉鎖92 、で昨シーズンは累計施設数245、休校・休園14、学年閉鎖138、学級閉鎖93であったから、シーズン途上だというのにもう既に近似した累計数になっている。

??本年のインフルエンザ集団感染に対する措置状況は2月15日現在、累計施設数77で、内訳は、社会福祉施設31、保育園・幼稚園35、病院11となっている。参考までに昨シーズンのインフルエンザ集団感染措置状況をあげると、累計施設数50で、内訳は社会福祉施設9、保育園・幼稚園33、病院8となっており、シーズン途上だというのにもう累計数は昨年を超えている。

 一般的に幼少児、学童が集団で過ごす教育機関では、子供たちは感染経験が少なく、免疫を十分獲得していないので流行の影響をもろに受ける。と、言うよりインフルエンザの流行はこの年代の子供たちの流行から他の年代に伝わっていく。
 その視点から1962年に、全学童にワクチンの集団接種が行われるようになった。しかし、学童の集団接種方式に関しては、接種を強制するのは人権問題、学童だけに接種しても流行状況は変わらない?、等の批判が起こり、1994年の予防接種法の改正でインフルエンザワクチンは定期接種からはずされた。今では重症化を防ぐために高齢者へのワクチン接種が勧奨され、65歳以上の高齢者には費用が低減されている。

 上記に示すように幼児・学童はが罹患することはほぼ自然である。従って、多くの施設で流行が生じた際には学級閉鎖などの対応がなされる。わずか数日間の閉鎖で流行が抑えられることが多い。従って、大きなニュースになることもない。
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インフルエンザ流行2015(2) 蔓延防止には手洗いと着替えが第一
 幼児・学童がインフルエンザに罹患することはほぼ自然である。従って、学校などで感染流行が生じても校長や学校医の責任が問われることはまずない。せいぜい、学級閉鎖などの対応時期や期間が問われる程度である。
 一方、医療機関、高齢者福祉施設での蔓延は一人でも死亡者が出ればメディアの良いニュースソースとなる。高齢者がインフルエンザに感染して死亡するのは社会がそのように仕向けているのであって、特別なことではない。もちろん対策は必要であるが、高齢者がインフルエンザに罹患して死亡するのは自然の摂理でもある。

 インフルエンザは人を介して伝播する。そしてそこに未感染者がいれば、感染者との密着度に応じて異なるが、濃厚なほど感染する確率は高くなる。人が日常生活を営む以上、人同士のコンタクトは避けられないから、インフルエンザの流行期には感染を避けることは困難である。私は諦め半分で見ている。

 医療機関や高齢者福祉施設の蔓延がメディア等で問題になっているが、最も想定されやすい感染ルートは、
??幼児や学童が保育園・学校で感染→ 
??両親に感染、家庭内に広がる→ 
??母親・父親の職場に伝播→ 
??感染者が見舞い等を通じて、あるいは感染した医療・介護施設スタッフが業務を通じて施設内に伝播→ 
??施設内で感染者同士で伝染しあい→蔓延、ということであろう。

 インフルエンザの蔓延防止には人の動きを遮断するのがベストであるが、この社会では人同士のコンタクトは避けられない。秋田には新幹線に乗って時速330Kmで、空路なら900Kmでインフルエンザウイルスが移動してくる。ウイルスも人間の交通手段を上手に利用している。

 予防対策として含嗽やマスクが推奨されるが、実際にはそれほど役立たない。予防効果に対する信用できるデータはない。特殊なものを除き、一般的に用いられるマスクは装着しても周りから空気が出入りしている。マスクは装着さえしっかりしていれば、咳やクシャミの際に飛沫の飛散範囲を狭める働きは期待できる。それでも流行期には必須のアイテムである。医療関係者は常に着用していて良い。

 ウイルスを含んだ飛沫は衣服、寝具、身の回りの品々など感染者の周りに付着している。鼻をかむ行為はティッシュペーパーを例え4-5枚を重ねて用いてもほとんど手のひらで鼻をかんでいるようなものである。手にはウイルスがウジャウジャいる。

 だから、予防対策に最も重要なのは、実は「頻繁な手洗い」と「衣服の着替え」である。衣服に付いた飛沫の中のウイルスは時間とともに感染力を失うが、数時間は維持される。感染者の手、医療機関や老人保健施設のスタッフの手は最も重要な感染源となる。

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インフルエンザ流行2015(3) 虚弱老人が感染して死亡するのは異常なことではない
 感染の洗礼を受けておらず、免疫が弱い幼児・学童がインフルエンザに罹患することはほぼ自然の摂理である。

 同様に、高齢化や種々の慢性疾患に罹患し、感染に対する抵抗力が乏しくなった虚弱な高齢者がインフルエンザに罹患しやすいのも同様である。しかも、インフルエンザ罹患を機会にもともとあった慢性疾患が悪化したり、摂食困難で全身状態が悪化したり、誤嚥によって呼吸状態が悪化することがある。もともとある慢性疾患の重症度は各人によって様々であろうが、年齢的にみて後期高齢者の多くはギリギリの状態で生きておられる方も少なくない。このような状況にある方がインフルエンザに罹患すると急速に重症化し、時には死の転機を取る。

 もっとはっきり言えば、インフルエンザに罹患してお亡くなりになるような方々は、罹患しなくとも一歩手前におられる方である。このような方は感染に対して実に脆い。

 後期高齢者でも全身状態が良く元気な方はもともと病院とか老人保健施設には入所しておらず、インフルエンザに罹患してもそれほど重症化せず、外来で十分治療可能である。

 病院とか老人保健施設で死亡患者が発生するとメディアは大騒ぎで、その施設・病院の対応の落ち度を探し出し、報道する。勿論、指摘事項は謙虚に受け止める必要があるが、ウイルスが侵入してくることを防ぐことは不可能である。対応に落ち度がなかった、ということもあり得ない。

 別疾患であって感染のレベルが異なるが、2002-03年に中国広東省に端を発した重症急性呼吸器症候群(SARS)は30ケ国で発症し、8069人発症、そのうち775人が死亡した(WHOのデータによる)。さいわい日本国内では発症しなかったが、その当時、私は県医師会の感染症担当であったために患者発生時の対応について国や県の担当部署と連絡を取り合いながら対応を種々検討していた。SARSは感染症として2類に分類され厳しい対応が求められた。患者を収容する医療機関ではスタッフへの感染予防対策を第一に考え、治療部門を独立させ、人的交流の遮断までも計画していた。治療スタッフは一定期間院内にとめおき帰宅させない、なども考慮していた。国内で発生したら大変な事態になっていたと思われる。非現実的な部分もるが、感染症の予防対策の基本はここにある。

 今の季節性インフルエンザは感染症分類では5類に分類され、このような予防対策は行われない。

 虚弱老人の多くは病院や施設に入所している。同じレベルで横並びにある虚弱者を一ケ所に集めてケアするという発想は効率性第一に考えた危険な方法である。それを国が計画し、社会が認めた方法で広く普及している。

 病院や老人保健施設にウイルスの侵入を完全に阻止できない以上、虚弱者が集まっている施設内で感染が生じることはやむを得ない。結果的に高齢者が死亡することも阻止できない。まず、その前提を社会が認めなくてはならない。このような背景の中、高齢者の幸せを願い日夜奮闘しているスタッフたちには敬意を表したい。その上で、院長ほか管理者にはベストな対策を講じることが求められる。

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インフルエンザ流行2015(4) 秋田県の施設内感染状況
 県内の老人福祉施設や医療機関で、A香港型インフルエンザの集団感染が相次いでいる。10人以上の感染が確認された施設、医療機関は17日の段階で77施設にも達している昨シーズンの合計が50施設だからこれを既に大きく上回っている。

 県内の医療機関、老人福祉施設では1月以降、集団感染により散発的に死者が出ている。
 新聞報道によると、老人福祉施設では井川町で10人以上が感染し1人が死亡。大館市と秋田市では計50人余りが感染して3人が亡くなった。医療機関でも鹿角市と大館市で計70人以上が感染し、6人が死亡した。これらの死亡者は、新聞で年齢が明記されている方は88歳、96歳、97歳で、他の方々も80-90代と記載されており例外なく高齢者である。

 以下に私の感想を述べる。

??老人保健施設、老人病院等で集団感染が多いのは虚弱老人を集めているためで、感染拡大のコントロールは困難である。
 狂牛病の蔓延、養鶏場での鳥インフルエンザの蔓延などは類似の個体を一箇所に詰め込んでいるためである。稲作における病虫害の蔓延も同様である。

??老人保健施設、老人病院等にウイルスを持ち込ませないのは不可能。
 家族の見舞いの禁止も事実上実行困難。面談室面会でも危険。施設のスタッフも通勤してくる以上、感染防御は困難。特に幼児、学童がいる家庭では感染の機会は高い。スタッフがウイルスを持ち込む可能性は高い、と考えられる。

??熱なし、軽い鼻水程度の症状の職員に対して「まさか出るはずはない・・・」と思いつつも大事をとって行った簡易検査で陽性者が出ることも稀でない。しかも、ワクチン接種済みのスタッフであった。検査をしなければ分からなかったし、感染後時間が経っていない場合は検査しても陰性で、後日陽性になることもある。インフルエンザの早期診断はこのように困難である。したがって、スタッフからの感染も防ぎ難い。

??ワクチン接種は入所者、スタッフともに行うべきであるが、種々の理由で出来ないこともある。スタッフといえども強制はできない。
 
??ワクチン接種は重症化を防ぐとされるが感染予防効果は乏しい。入所者が50名ほどの某老人保健施設では入所者全員と20-30代中心のスタッフ全員にワクチンを施行したが、共に4割近くが発症している。

??インフルエンザワクチン接種は重症化を防ぐとされるが、それも限界がある。死亡された88歳、96歳、97歳、80-90代の方々には効果が乏しかったと思われる。

??推奨されているマスク、うがいには予防効果はほとんどない。スタッフ、訪問者とも手洗い、着衣交換が必要。

??抗インフルエンザ薬の治療効果、予防投薬の効果も虚弱高齢者には効果が乏しい。しかも、抗インフルエンザ薬予防投薬は保険診療対象外であり、病院、施設の費用で行われるが理不尽である。少なくとも感染が蔓延しつつある施設等では公費で行われるべきである。ちなみに、タミフルを1日1カプセル10日間内服費用は一人6,570円である。50人も予防投薬したら、持ち出しは大変な額になる。

??病院、施設等では感染まん延を防ぐために隔離などのための余剰のスペースが必要である。

??中規模、小規模の病院では感染者の入院を断っているとされるが、地域の中核病院ではその様な患者の選択はできない。重症化しつつある場合、感染者であっても入院させねばならない。

??病院、施設等では感染まん延を防ぐためにの指針もある。いかに対策しても高齢者の死亡は防ぎ得ない。管理者から情報を公開する必要があるが、対応上、大きな過誤や判断ミスがなければ、メディアの前で陳謝する必要はない。

??圏内では下火になりつつあるが、インフルエンザの流行期はまだまだ続く。病院、老人保健施設ではまだまだ気が抜けない状況が続く。

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