書評 -文芸書&一般新書

眠れぬ夜のラジオ深夜便    新潮新書 価格: ¥714 (税込)
宇田川 清江 (著)
 私はTVよりはラジオ
絶対的に好む。小学生の頃から鉱石ラジオを組み立てていつも聴いていた。ソニーのトランジスタラジオの出現はサイズ、価格共に驚きであった。受験勉強の頃もいつもラジオを置いてのながら勉強であったが、私にとってのながら勉強は怠惰なことでもない。集中するとすっと聞こえなくなるから能率も落ちていないと思う。この点はTVは遙かに劣る。画面に眼を奪われるから仕事にならないし、音だけ聞いていてもがなり立てるからうるさい。内容がくだらないのが多いので別に無くとも実害はない。
 私は年間を通して朝1:00-2:00頃からその日の活動を始めるが、やはりながら仕事をする。4:00迄は主にCD,MDをかけ、4;00はNHKラジオ深夜便「こころの時代」にダイヤルを合わせる。内容によってはまた音楽に戻すこともあるがほぼ連日聴く。聴きながら徒然日記を書き、風呂に入り、出勤の準備をする。私にとってNHKラジオ深夜便は身近な存在である。

 そう言う背景があるからか、先日仙台出張時にふと立ち寄った書店でこの本が直ぐに目に入り、帰りの新幹線で読み切った。

 著者の宇田川氏は1990年4月28日の番組開始からのキャスターとのことで今でも時々出演している。私はこの方の声は高校生の頃から知っていた。当時FM放送はまだ無い時代、NHKは二つの放送電波を利用して週一回日曜日午前11;00に「NHK立体音楽堂」というステレオ番組があった。二台のラジオを用意し右を第一放送、左側を第二放送をかけるとステレオになると言うもの。心ときめかして聴いたものだが、この番組のナレーションを彼女が担当していた。勿論、アナウンサーの名前なんか知らなかったが、そのことも本の中でちょっぴりと触れており、実に懐かしく思いだした。
 
 この本では放送開始にまつわる種々のエピソード、苦労話、「ラジオ深夜便の集い」、15年の放送を通じての思い出話などが淡々と紹介されている。我が国も高度成長期に入って次第に夜型の生活になっていき、TV時代となり、レンタルビデオ時代、更にパソコン時代となってラジオは地味な存在となった。当時、NHKのラジオ放送は0;00で終了、深夜放送はニッポン放送が昭和30年代からやっていたが、だんだん運転業務とか受験生とか一部の人にしか聴かれなくなっていった。私が時々聴いていたのもこの放送である。
 NHKの深夜放送開始の切っ掛けは昭和天皇の病状容態の放送のためにつなぎとして一晩中音楽を流した時に遡るという。深夜の音楽放送が耳に心地よかったという反響に始まるとのことで、昭和天皇の間接的置きみやげの一つと言い得るようである。今はお年寄りを中心に200万人が聴いている人気番組にまで成長した。
 
 番組の大枠として(1)対象は大人(2)ゆっくり話す(3)NHKアナのうちOBによる(4)歌詞のない静かな曲を流す・・と決められたとのこと。現在の構成は、放送時間は23;10-5;00迄で一人のキャスターがこの長丁場を担当している。最初は「ワールドネットワーク」「ラジオ歳時記」などで始まり1;00台は「演芸特選」3;00台は「名曲・・主に日本の歌曲や歌謡曲」4;00からは「こころの時代」で多くの方が登場し対話形式での話や講演会の模様等が放送される。なかなか聴けないいい話がふんだんに登場する。この6時間の間、聴取者からの手紙も数多く紹介されるから聴取者にとっては親しみやすい番組になっているのだろう。この番組を聴いていると日本は本当に高齢化社会なのだと実感するし、お年寄りの、趣味、生き甲斐、日常感じていること、静かな心境、悩みの一端などがよく解る。

 この本は「ラジオ深夜便」の愛好者、ラジオ番組に興味のある方、NHK、アナウンサーに関心のある方々にはお勧めである。