人間ドックを受けましょう

人間ドックを受けましょう
 私は病院の一泊宿泊人間ドック担当である。週に10-15人と他の医療機関のドック数よりは少数なのだろうが,実際には診察,総括,資料作成,結果説明と一人あたり1時間は必要で結構大変な業務である。火木土の3日間は8:00に診察面談を組み、外来診療終了後にほぼ連日結果説明がある。
 人間ドックは数年前に担当となったが,他の業務を減らされないままそっくり上乗せされてしまった。病院業務と医師会業務でもともと週休二日制もとれる状態でなかったから日曜祭日も取り上げられた様なもの。で、日曜日直は何とか免除してもらった。
 昨年6月以降は更に副院長業務も加わったので,週間の時間配分は慎重に行わなければ業務に穴があく。外来診療とかの院内業務がやや少ない金,土日のウイークエンド,祝祭日は溜まった業務に充てる。日祭日はテニスや楽器練習などを若干楽しむ程度の余裕はあるものの,そのほかの時間の殆どは病院と医師会業務の処理に充てる。リハビリ当直室は勿論、学会出張や日医関連出張等の場合,移動の新幹線やホテルもドック処理を含めた私にとっては良い仕事場である。

 この、ドック業務に追いかけられている私の状況はなかなか理解されないらしく,私が日直免除されていることには不満を述べる医師がかなりいるらしい。まあ,医師は自分が一番多忙だと思っている人種だからそういわれてもやむを得ない、とひたすら我慢。ただ,ドックを返上出来るなら喜んで日直を引き受けます、とは言っておきたい。
 これは業務上の愚痴。

 人間ドックでは私が担当してから現在まで年間500人,延べ2000人受けたことになるが,そのうち年一回のリピーターが多いので実質は300-400 人程度だろうか。このうちで,視力障害を含む全項目で異常なしの判断は,驚く事なかれたったの1名だけ。
 悪性腫瘍は年間5-8人程度,治療を要する程度の生活習慣病は100人程度,生活指導を要する異常は約半数で見つかる。この生活習慣病関連の健康指導が実を結ぶのは10%もいない。あれだけ指導したのに同じ状態で,あるいは更に悪化して翌年また受けにくる。むなしい瞬間がそこにある。何のために人間ドックを受けるのか!!! 
 しかし,怒るよりは人間の弱さの方を謙虚に認めなければなるまい。
 これは受診者への愚痴。
2003 /3/22


悪性疾患について
 私にとっての人間ドックはかなりストレスのもとになっているが受診者数は年間約500人,延べ 2000人となっている。このうちで,毎年7-8人が悪性病変が検出され治療を受ける。これが見つかったときは「役に立った」と、日常の苦労も愚痴も忘れてスッと気持が楽になる。

 ここ数年で全部で20名ほどだろうか。そのうちで進行癌は1名だけ。この方は初めての受診者で全くの無症状であったが腹部の超音波で多発性の転移性肝癌の状態、胃の内視鏡で小さなガン病巣が見つかったものである。直ちに入院、各種の治療を受けたというが数ヶ月でお亡くなりになった。これほどの病状の方であればむしろドックで見つからない方がより良かったかもしれない。他の方はほぼ1-3年ごとに受けておられるリピーターの方々である。このうち脳腫瘍1 名、肺ガン1名、食道ガン3名、残りは胃ガン、大腸癌である。これらの方は全て術後の経過は良好である。乳腺、婦人科系のガン、男性の前立腺癌はまだ見つかっていない。

 ガン発見のパターンとして外来診療を通じて発見される「体調不調型」、たまたま受けた検診とか、別な疾患で受診中に見つかる「偶然発見型」、定期検診やドック等で見つかる「定期検診発見型」があるが、「体調不調型」での発見はどうしても進行癌が多い。
 「偶然発見型」、「定期検診発見型」は早期の治療可能、完治可能なタイプが多い。集団検診も人間ドックも悪性疾患の発見のためには必ずしも効率はいい方法とは言えないが、個々の方々にとっての意義は大きい。特に多忙な方々は若干の症状があっても受診の機会が無く我慢していることが多く、この点は誕生日とかに自発的に決めて受診してくる方、会社とかから半強制的に受けさせられる方々は頻度の高い悪性疾患の早期発見・治療という点に関してだけは良い状況にあると言い得る。

 ただ、せっかく受けていても集団検診も人間ドックもレントゲンや内視鏡、超音波像などの画像診断の場合は判定の精度が問題になる。その点、当院のドックシステムは画像診断はダブルチェック方式で複数の医師あるいは集団検討会を経由してくるので精度は高いと思う。それでも一定程度の見落としは避けられないが、その弱点を補う方法としては定期受診が一番である。決して検診結果やドックの結果が異常なかったっからと言って安心しきってはならない。自分の命を守るのは自分であることを念頭に、投資も必要である。
                              2003 /3/24

生活習慣病について
 ドック受診者で最も頻度が高くて問題なのが生活習慣病関連の異常、特に体重過多に起因する諸問題である。
 私が担当している一泊二日の人間ドックの受診者は、職場からの割り当てや補助がでることで任意または半強制的に受診して来る方と個人の資格でうけられる方に分けられる。前者は80%ほど、後者は20%ほどである。

 後者の方々はもともと健康に関心が高い方達で経費も自費で受けられる。これが6-7万円もするのだから決して安くはない。結果説明も文書郵送と言われる方は少なく説明もしっかりと受けられる。この方々にも生活習慣関連の異常が必ずしも少なくはないが、比較的生活指導に従ってくれるのでよりやりがいはある。毎年受けておられる方はそれなりに改善の方向を辿り、悪化させてくる方は少ないようだ。

 前者の方々は経費も会社等が全額または大部分を負担されている。もともと健康に関心が無いというわけでは無かろうが、仕事上のストレスとか多忙さなどからあまり日常健康に留意はしていない方達であり、「ドックの順番が回ってきたし、日常あまり注意していないから、まあこの際受けておくか・・・・・」程度の動機で、悪性疾患があるか否かに関する関心はあるが、生活習慣病に関しては関心が乏しい。従ってこの方々にとっては結果が白か黒かの区別だけが問題であり、最も重要な灰色レベルの異常には目もくれない。結果も文書郵送希望が多い。
 オプションで肺ガンドック、脳ドック等を追加された方々はさすがに結果説明を希望するが、この方々には生活習慣関連の異常が実に多いので指導は結構大変である。しかし、もともと病識が不足しているために指導に従ってくれる方は極めて少なく、ドック担当医としては大きなストレスのもとでもある。

 初期の頃はもっと気を入れて指導したように思っているが、改善意欲の乏しいリピーターの方々向きに説明書の前文を素っ気ないものに変えて自己責任を強調するようにしている。

 以下が私のドック結果説明書の前文である。
 「ドックの価値はガンなどの発見にもありますが、知らず知らずのうちに健康を蝕む生活習慣関連病の早期発見・治療にあります.対策は医療以前の喫煙・飲酒・食事・運動等の生活習慣の改善です.所見のあった検査項目についてコメントはいたしますが、対応についてはドックでは原則的に方向性の提示・提言に留めます.日常の健康管理は自分の責任で行うべきものです.ドックの結果を無駄になさいません様に御願いいたします.」
                           2003 /3/25



健康度を色に例えれば灰色
 ドック受診者の大部分は現役の労働者であり、その多く方々はこの社会の流れの中で種々のストレスと対峙している。若くて30歳代後半、多くは40歳後半から60歳前半の、各業界で言えば最も脂の乗っているベテランの方々である。僅か数分であるが、患者さんとは別の、より対等の立場での対話が交わされるこの時間は、私にとってもいろんな業界の現状や考え方に触れる事が出来る有用な時間である。

 受診者にほぼ共通して言えることは、多くは自分の健康に関心はあるものの多忙を理由に軽視する傾向、軽視せざるを得ない現実があると言うこと。その結果健康に関するとらえ方が短絡的になり、異常か正常かの2大別でとらえているということである。
 中年にもなるとその方の健康状態は真っ新の白であるという評価は先ずあり得ないし、黒であることもない。特に、現役のばりばり働いている世代の健康度はほぼ全員灰色である。しかも、個人によって白に近い灰色か、黒に近い灰色かである。大部分の疾患が生活習慣に関連して発症する現在、この認識が重要であり、自分の努力次第で白に近づける事が出来る猶予もあると言うことである。

 この考え方を含めて私が作成する結果表には次のように記載している。

●蛇足ながら、一言
 結果は郵送でも可能ですが、出来ることであれば説明を直接受けられますようお勧めいたします.健康度の判定、検査結果の判定の際、白黒がはっきりしていることもありますが、灰色に例えるべき状態も少なくありません.黒に近い灰色なのか、白に近い灰色なのかを限られた文章で表現することは不可能ですし、時には誤解のもとにもなり得ます.
 結果説明の際には各項目の詳しい評価、再検査が必要な際には具体的方法などを含め、生活上で注意すべき点などについても、対話を交えつつ納得いただけるよう説明いたします.
 このレポートをお読みになって、解りがたいこと、不安なこと等がありましたら、福田まで連絡いただければ、ご説明いたします。
 E-mailでも結構です(E-mail:mfukuda★rnac.ne.jp,) ★を@に変えて送信してください
2003 /3/26





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