秋田市医師会は市の医師会報上で,特集「秋田市におけるSARS対策」を企画している。
花岡院長の草稿に私が若干加筆して以下の如くにまとめた。私的病院としての対応の限界を提示した。職員諸氏のご意見を戴きたい。
                       2003/10/30


特集『秋田市におけるSARS対策』

その2・中通総合病院における現時点でのSARSへの対応

中通総合病院院長    花岡農夫

                                                             
●SARS診療、まず前提
 今夏,SARSは終焉した。患者の隔離と季節変動のためと考えられる。SARSの診断・治療は何も進歩しておらず,ワクチン実用化は数年先のことである。迅速診断法の実用化も不明である。
 SARS コロナウイルスは小動物に存在しており,今冬再流行する可能性がある。空港での検疫は強化しても発病前の感染者の発見は不可能であり、危機管理と医療体制構築の手は緩められない。
 SARSは高熱がほぼ必発であるが、幸いこの頃は感染力は極めて低いとされている。呼吸器症状を呈するころから感染力が増し、咳やくしゃみと共に排出された微粒子を吸い込んだり,付着したウイルスを手指を介して鼻や口に運ぶことで感染する。空気感染も完全には否定されていないが確率は極めて低い。
 従って、SARSは通常の市中生活で感染する可能性は殆どない。感染の機会は主に家庭と医療機関である。
 感染予防は呼吸器症状を伴う患者に不用意に近づかないこと、マスク着用と手洗い、防御服の着用である。

●厚労省・秋田県のSARS対策と当院
 厚労省のSARS危機管理対策指針では診断・経過観察・治療は一般の医療機関で行うことになっているが,対応可能な医療機関は国内に数カ所しかない。先日の法改正でSARSは一類感染症となった。本来この種の感染症は一般の医療機関で扱うこと自体困難であり,ましてや私どもの如くの私的医療機関では不可能である。
 厚労省の指針は諸外国の経験からみても基本的に誤っている。

 県は厚労省の指針に基づき,SARSの入院治療のために2病院,初期外来診療を担う医療機関として当院を含む13の病院を指定した。
 SARSの外来診療は,SARSが秋田県で初発する可能性はほとんど無い。従って、海外で限局的に発生している時、国内に発生し始めた場合、さらに秋田県の身近でも発生した場合,等に段階別に分けて対応を考える必要がある。

 SARSを疑うべき患者が来院する可能性が少ないときには、診察前にトリアージし、当該患者は一般患者とは異なる場所で診療することである。
 SARSが身近に発生した際には,パニック状態に陥った住民やインフルエンザに混じって,SARSを疑うべき例が多数受診して来ると考えられる。そのような状況になった際にはもはや一般の医療機関における診療は危険であるとともに一般診療が混乱する。このような状態では広い待合室と複数の診察室が必要であり、公的施設の一角、例えば保健所、場合によっては体育館などを使用した発熱外来等を開設すべきである。

 入院治療については経過観察が必要な患者を各地の病院に分散して収容することは危険であるばかりでなく,県内の地域医療体制が混乱する。国または県の医療機関や施設をSARS入院治療専門施設として複数指定し,患者を集中して治療すべきである。

●当院におけるSARS対策
 SARSの如くの第一種感染症は原則として公的医療機関が優先的に対応すべきと考える。当院は初期診療協力医療機関としてエントリーはしているものの診療スペースにもマンパワーの面でも余裕はなく,外来診療においても積極的に患者を受け入れることは出来ない。入院治療への対応は不可能である。

 しかし、患者が来院した場合に備え、当院の能力の範囲で診療する準備は整えている。
 まず、「SARSについての院内学習会」や「SARS院内感染対策講習会」を開催し,感染対策やガウンテクニックまで,多くの職員が学習し、一部シミュレーションも行った。状況に応じて今後も開催するが、一般患者と職員を守ることを優先した対応を行う。

 外来診療は、一般患者と交差することのない場所に用意した特別診察室で行う。一応,ポータブルレントゲン撮影が可能で、患者専用のトイレもある。病院の各入り口の前に十分目立つ看板を出し,該当する患者さんが連絡無いまま直接院内へ入ることが無い様に注意を喚起する。電話、インターフォンなどの通信手段を通じて指示を与え,該当する患者は特別診察室へ誘導する。 
 いわゆる「すり抜け例」の生じる可能性は,どこの医療機関でも同じと思われるが、対策の一つとして有熱患者専用の待合いスペース、診察室の配置換えなども検討し、病院の奥まで患者が入り込まないような方策を考える必要があろう。その上で状況に応じたベストな対応をするしかない。

 入院加療・経過観察を必要とする患者は、私的病院のレベルでは対応が不可能であり,県の指定した病院にお願いせざるを得ない。

●終わりに
 SARSの診療・研究に深く携わっている香港中文医科大学の徐副教授は先日の講演の中で、今冬のSARSが発生する可能性は50%だろうと予測している,と述べた。願わくば発生して欲しくない。よしんば、何処かで発生した場合でも自分の所にSARSが受診しないよう誰しもが願っている。
 このような及び腰の危機管理は危機管理といえない。その点では厚労省の責任は大きい。秋田県内,もしくは秋田市内でSARSが発生する様な事態はいわゆる「有事」であり、そのような際には基本的には市、県、国の指示に従う形で対応するしかないと考えるが、当院としては一般患者と職員を守ることを優先しながら、私的医療機関の立場は主張し続けていく。各医療機関には設立母体に応じて担うべき領域が異なっていて当然であり、繰り返しになるが,有事への対応は公的医療機関が優先して対応すべきである。

 



●SARS診療、まず前提
 今夏,SARSは終焉した。患者の隔離と季節変動のためと考えられる。SARSの診断・治療は何も進歩しておらず,ワクチン実用化は数年先のことである。迅速診断法の実用化も不明である。
 SARS コロナウイルスは小動物に存在しており,今冬再流行する可能性がある。空港での検疫は強化しても発病前の感染者の発見は不可能であり、危機管理と医療体制構築の手は緩められない。
 SARSは高熱がほぼ必発であるが、幸いこの頃は感染力は極めて低いとされている。呼吸器症状を呈するころから感染力が増し、咳やくしゃみと共に排出された微粒子を吸い込んだり,付着したウイルスを手指を介して鼻や口に運ぶことで感染する。空気感染も完全には否定されていないが確率は極めて低い。
 従って、SARSは通常の市中生活で感染する可能性は殆どない。感染の機会は主に家庭と医療機関である。
 感染予防は呼吸器症状を伴う患者に不用意に近づかないこと、マスク着用と手洗い、防御服の着用である。

●厚労省・秋田県のSARS対策と当院
 厚労省のSARS危機管理対策指針では診断・経過観察・治療は一般の医療機関で行うことになっているが,対応可能な医療機関は国内に数カ所しかない。先日の法改正でSARSは一類感染症となった。本来この種の感染症は一般の医療機関で扱うこと自体困難であり,ましてや私どもの如くの私的医療機関では不可能である。
 厚労省の指針は諸外国の経験からみても基本的に誤っている。

 県は厚労省の指針に基づき,SARSの入院治療のために2病院,初期外来診療を担う医療機関として当院を含む13の病院を指定した。
 SARSの外来診療は,SARSが秋田県で初発する可能性はほとんど無い。従って、海外で限局的に発生している時、国内に発生し始めた場合、さらに秋田県の身近でも発生した場合,等に段階別に分けて対応を考える必要がある。

 SARSを疑うべき患者が来院する可能性が少ないときには、診察前にトリアージし、当該患者は一般患者とは異なる場所で診療することである。
 SARSが身近に発生した際には,パニック状態に陥った住民やインフルエンザに混じって,SARSを疑うべき例が多数受診して来ると考えられる。そのような状況になった際にはもはや一般の医療機関における診療は危険であるとともに一般診療が混乱する。このような状態では広い待合室と複数の診察室が必要であり、公的施設の一角、例えば保健所、場合によっては体育館などを使用した発熱外来等を開設すべきである。

 入院治療については経過観察が必要な患者を各地の病院に分散して収容することは危険であるばかりでなく,県内の地域医療体制が混乱する。国または県の医療機関や施設をSARS入院治療専門施設として複数指定し,患者を集中して治療すべきである。

●当院におけるSARS対策
 SARSの如くの第一種感染症は原則として公的医療機関が優先的に対応すべきと考える。当院は初期診療協力医療機関としてエントリーはしているものの診療スペースにもマンパワーの面でも余裕はなく,外来診療においても積極的に患者を受け入れることは出来ない。入院治療への対応は不可能である。

 しかし、患者が来院した場合に備え、当院の能力の範囲で診療する準備は整えている。
 まず、「SARSについての院内学習会」や「SARS院内感染対策講習会」を開催し,感染対策やガウンテクニックまで,多くの職員が学習し、一部シミュレーションも行った。状況に応じて今後も開催するが、一般患者と職員を守ることを優先した対応を行う。

 外来診療は、一般患者と交差することのない場所に用意した特別診察室で行う。一応,ポータブルレントゲン撮影が可能で、患者専用のトイレもある。病院の各入り口の前に十分目立つ看板を出し,該当する患者さんが連絡無いまま直接院内へ入ることが無い様に注意を喚起する。電話、インターフォンなどの通信手段を通じて指示を与え,該当する患者は特別診察室へ誘導する。 
 いわゆる「すり抜け例」の生じる可能性は,どこの医療機関でも同じと思われるが、対策の一つとして有熱患者専用の待合いスペース、診察室の配置換えなども検討し、病院の奥まで患者が入り込まないような方策を考える必要があろう。その上で状況に応じたベストな対応をするしかない。

 入院加療・経過観察を必要とする患者は、私的病院のレベルでは対応が不可能であり,県の指定した病院にお願いせざるを得ない。

●終わりに
 SARSの診療・研究に深く携わっている香港中文医科大学の徐副教授は先日の講演の中で、今冬のSARSが発生する可能性は50%だろうと予測している,と述べた。願わくば発生して欲しくない。よしんば、何処かで発生した場合でも自分の所にSARSが受診しないよう誰しもが願っている。
 このような及び腰の危機管理は危機管理といえない。その点では厚労省の責任は大きい。秋田県内,もしくは秋田市内でSARSが発生する様な事態はいわゆる「有事」であり、そのような際には基本的には市、県、国の指示に従う形で対応するしかないと考えるが、当院としては一般患者と職員を守ることを優先しながら、私的医療機関の立場は主張し続けていく。各医療機関には設立母体に応じて担うべき領域が異なっていて当然であり、繰り返しになるが,有事への対応は公的医療機関が優先して対応すべきである。