中通総合病院職員の皆様に --年頭のご挨拶と所信--(2008.1.8)

    


INDEX

1 はじめに

2 2007年をキーワードで振りかえる

3 2007年の中通総合病院・法人の活動を振りかえる

4 2007年を病院運営の面から振り返る 

5 医療の今後に展望はないのか

6    2008年中通総合病院の運営方針

7   終わりに



1 はじめに
 新年明けましておめでとうございます。
 2008年初の医局会を迎えるにあたり、新年のご挨拶と今年の所信を申し上げます。
 昨年一年間を、多忙を極める中、全職員が力を合わせて、創業以来の理念に基づく患者の立場に立った医療、安全で良質な医療を提供し、かつ、多くの課題を達成した年であったと総括致します。
 全職員の皆様方の奮闘に対し、院長として心から感謝申し上げます。
 特に、「7:1看護体制」の取得と維持に関しては法人を挙げてご協力いただきました。法人内各院所の皆様方にはいろいろとご不便をお掛けいたしました。本年度の中通総合病院の運営は比較的順調に推移しておりますことを報告し、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 今年はどの様な年になるのでしょう? 先のことは誰にも分かりません。私共は今年をどの様な年にしたいのか、その視点で考え、行動し、良い一年にしたいと考えています。


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2 2007年をキーワード的に振り返る。
 地球レベルでは「自然破壊」、「温暖化」でした。
 国際的には「政治・経済の不安定」、「原油・食材の高騰」などが問題になりました。
 国政面では「無責任発言」、「閣僚更迭」、「年金問題」、「参議院与野党の逆転」等があり、安倍首相は「政権を放棄」し、9月に福田内閣が発足しました。
 社会面では「防衛省疑惑」、「食品偽装・隠蔽」等が問題となりました。
 医療界では政府の長年の低医療費政策の帰結として、「医師不足」が顕在化し、「地域医療の崩壊」が一気に進みました。


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3 中通総合病院・法人の活動を振り返る。
 中通総合病院・法人共にこの一年間はいろいろな施策を実行しました。その活動を簡単に振り返ります。

●1-3月は前年度の第4四半期で、大幅な収入減を如何に縮小するかに心を砕きました。また、「7:1看護体制」取得、「DPC準備病院」参入に向けて精力的に準備を進めました。
●4月には7名の研修生を受け入れ、「救急診療部」を立ち上げました。隣接する「千秋会館跡地」を取得出来たことで病院新築が具体化しました。
● 5月には「7:1看護体制」を取得しました。
● 7月から「DPC準備病院」としてデータ送付を開始しました。
● 9月には法人の「育児支援対策」が決定し、「介護福祉事業部」が新設されました。また、「大曲中通病院の新築」工事が始まりました。
● 10月には「明和会こども園」が開設されました。「地域がん連携拠点病院」の推薦は残念ながら受けられませんでした。
● 12月には「第二次外来再編検討委員会」、「中通総合病院新築準備委員会」が発足しました。


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4 2007年を病院運営の面から振り返る。
 政府はこの四半世紀低医療費政策を展開して来ました。物価が右肩上がりに上昇していく中、この12年間で6.7%も診療報酬を下げました。加えて、受診抑制、在院日数短縮化、療養病床削減、患者窓口負担増、後期高齢者医療制度新設等の厳しい施策を繰り出して来ました。
 先進国の中で社会保障関連の支出を減らしている国は日本だけです。

 この間、マスコミは厚労省の施策に同調し、医療費亡国論等の主張に便乗し、厚労省寄りの立場で医療界、医師会、医療機関をバッシングするような論評を繰り返してきました。

 医療機関は各々、急性期化、在院日数短縮、病床稼働率上昇、人件費削減等を実行し必死に対応していますが、診療報酬の削減の元では診療収入は頭打ちであり、増大する支出のために運営は困難を極めております。診療報酬としてわれわれは消費税を頂いておりませんが、消費税の負担もずっしりと重くのしかかってきております。
 病院運営実態調査によりますと、ここ20年間ほどは我が国の病院の収支は悪化の一途をたどっておりますが、2006年の調査では、わが国の約9000ある病院のうち、実に72.8%が収支で赤字を計上しています。医療機関の倒産件数も増えてきています。
 この様に鋭意努力しても7割以上の病院が赤字になるような医療政策そのものが問題であることは明白です。

 今年も前年に引き続きマイナス3.16%の診療報酬削減下で病院運営が強いられています。しかし、私どもの病院では11月迄の推移で見る限りほぼ予算に近似した収入を計上出来ております。

 2002年から外来患者数、病床利用率共に継続的に低迷しておりますが、本年度は前年度に勝る診療収入を維持しております。外来の患者層、診療内容が変わりつつあり、入院医療では在院日数短縮による病床利用率低下を患者の絶対数の増加でカバー出来ているためと考えられます。このことは今後の当院の医療の進むべき姿の一端を示していると考えます。
 勿論、5月に7:1看護体制を取得したことも大きく影響しています。


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5 医療に展望はないのか
 私たちは医療活動を通じ市民・県民の健康を守ることで、社会に大きく貢献していますが、業務環境は年ごとに厳しさを増し、個々人の限度を超えつつあります。この様な状況下では働くモチベーションが低下しやすくなります。いま問題になっている医療崩壊の最も重要な因子は病院、とりわけ急性期医療を扱う病院職員、特に医師・看護師の過重労働と達成感の欠如に因るモチベーションの低下が原因になっています。その面では当院の職員は厳しい環境の中で良く頑張っていると思っております。心から感謝の意をお伝えしたいと思います。

 私どもの病院内にもまだまだ解決すべき問題点はあります。今後は内憂外患を排除しながら、より働きやすい職場に作り替えていかなければなりません。それには過重労働のからの回避も一つの目標となります。

 小泉首相が5年余の間に繰り出した医療政策は厳しく、その中に医療提供の立場から見ても、患者の立場から見ても殆ど展望を見いだす事が出来ませんでした。結果的にわが国の医療は一気に崩壊状態に至りました。

 安倍首相はこの状況に危機感を持ち、任期中に「国民に安心して貰えるよう取り組む」との発言を繰り返し、それに沿った施策をとり始めました。

 福田首相は次回の選挙での政権維持を最大の命題として発足したと言う事情はありますが、医療費抑制策の見直しを宣言し、わずかではありますが希望が見える施策を提起してきております。具体的には、●「高齢者医療費負担増の凍結検討」、●「医師不足解消のための抜本的処置」、●「障害者自立支援法の抜本的見直し」・・・などです。

 もう一つ注目すべきは、昨年来、医師不足、勤務医の激務、地域医療の崩壊等の医療問題に対してマスコミの論調に大きな変化が見られていることです。 

 三大紙による、●「医療危機」(朝日)、●「医療クライシス」(毎日)、●「医療崩壊」(読売)等の連載記事は内容的にもインパクトがあっただけでなく、従来厚労省寄りの論評を繰り返していた三大紙がこぞって方向を転換しつつあることには大きな意味があると考えます。地方紙である秋田さきがけ新聞は精力的に県内の厳しい医療事情を報道し続けており注目できます。
 いままで低医療費政策の片棒をかつぎ、日本の医療を悪化させておきながら今更何だ、と言う観はありますが、マスコミの持てる影響力は大きく、これにより国民もやっと医療界の厳しい現実を認識し始めてきております。

 また、健康問題等の解決には関係者自らが運動することが肝要と認識され、各地でいろいろな運動が展開され、●被爆者の認定範囲の拡大、●C型肝炎訴訟、などで成果を挙げています。この様に問題を抱える当事者が大きな声を上げることが状況の改革のために近道です。勤務医・病院が今置かれている厳しい状況を改善して行くには勤務医自身が声を上げる必要があります。

 現在、社会問題化している医師不足による医療崩壊が長年の日本の低医療費政策の結果であることを、各政党も、マスコミも、国民もやっと気付いたようです。結果的に平成20年度の診療報酬改訂は0.38%アップという結果が出ました。率としては小さな数字ですが、これは6年振りの医療行政の方向転換と考えれば大きな変化と言うべきです。また医学部定員が来年度から158人/年とわずかですが増員されました。10万人もの医師が不足しているという試算がある中微々ながら大きな方向転換をしてきた、と申せましょう。

 私どもも今、患者のために、自身のためにも決して黙っているべきではありません。医師会や民医連等のルートを通じて医療現場の厳しさを中央に発信し、低医療費政策を根本から改めるよう要求し続けなくてはなりません。


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6病院の本年度の方針
(1)経営の盤石化
 特定医療法人とはいえ、私どもの病院は私的医療機関であることは変わりありません。厳しい医療情勢下にあることから、今年も最重要課題として「経営の盤石化」を挙げます。その目的は、決して利潤を追求するのでなく、その果実を「全て患者のために、全て職員のために還元」し、●納得のいく医療を展開し続ける、●余裕と働きがいのある職場にしていく、そして、●新病院建設のため、です。

 その方法論としては、決定打はありません。私たちは診療報酬以外の収入源はありませんので、外来も病床も一定程度の患者数が必要です。日々安全で良質な医療を地道に展開し、患者に選ばれる医療機関であり続ける事が基本です。その上に立ち、考えられる項目を有機的に組み合わせながら成果を求めて行くことです。

 入院、外来診療共に一層急性期化を進める必要があり、診療の重点を徐々にDPC時代を見越した効率的な医療、すなわち網羅的医療からの脱却し、吟味と厳選の医療、に変えて行かねばなりません。

 項目的に列挙すると、
● 創立以来の理念に基づいた安全で地道な医療の展開
● 救急診療機能の見直し
● 病診連携・介護福祉事業部の機能向上と地域のニードへの対応
● DPC時代を見越した診療内容を見直し、医療の標準化を追求
● 療養病棟の見直し、緩和病床の設置等、病棟の再編検討
● 病床利用率の確保
● 7:1看護体制の維持、等です。

(2)各診療科・各部門の後継者対策
 当院の医師、パラメディカル共に数的に不足しているだけでなく、高齢化傾向を認めます。そのために各部門の人員の確保と後継者対策に力を注ぎます。

 その中でも医師体制の確保は最重要課題ですので、各診療科の診療、医師体制の展望について各診療科の医師と対話を通じて考えていきます。

 秋田県は秋田周辺地域以外の基幹病院の医師不足は数年前から問題となり、特定の診療科を問わず一層深刻な状態になってきています。昨年6月県医務薬事課が78病院に行った調査では295人もの医師が不足している事が分かりました。秋田市内の病院の医師体制にも絶対的医師不足の影響がじわじわと迫りつつあります。
 当院の医師体制も例外ではありません。常勤医のいない耳鼻科、皮膚科は勿論のこと、ほぼ全ての診療科で医師が不足し、業務に余裕が乏しくなっております。既卒医師獲得に向けては秋田大学の関連する診療科に派遣をお願いしておりますが、正直なところ早期に解決できるという目処はたっておりません。

 この様な厳しい状況の中、今私どもがいま大事にすべきは今共に働いている中堅医師の離職を防ぐ事と、当院の臨床研修の内容を一層充実させる事につきます。初期研修医が引き続き当院で後期研修を続け、更に内地留学による専門研修を通じて後継者として育成することが重要です。
 この際、新人医師の3人に1人が女性という状況にあります。法人の「育児支援対策」、「明和会こども園」等による女性医師の労働条件の改善を医師対策に具体的に結びつけます。

(3)重点的診療分野
(あ)各診療科、スタッフが持つ得意分野の診療機能を伸ばします。
(い)DPC時代を見越してより一層急性化し、吟味と厳選の医療も追求して行きます。
(う)そのために救急診療部門の機能は一層重視します。
(え)がん診療の充実
 昨年4月から国の「がん対策基本法」が施行され、県では「秋田県がん対策推進計画」を策定中です。また、文科省の後押しで「北東北4大学共同プロジェクト」も設立される予定で、来年度は県内のがん診療が充足していくと考えられます。当院は昨年10月末の地域がん診療拠点病院の推薦は受けられませんでしたが、がんの診療レベルは国の認定基準を十分に満たしております。
 私どもはがん診療の機能を見える形で伸ばしていきます。
 その際、診断、集学的診療、緩和ケア、院内・地域がん登録、相談室、広報を含め各診療科を越えた統合が必要なので診療科、関連職種を横断的に融合させる診療機構を提起し、その中で緩和病床導入についても検討を進めます。

(お)高齢者の急性期医療の重視
 今後、秋田県、秋田市共に高齢化が一層進みます。従って高齢者医療を軽んじた地域医療は成り立ちません。しかし、高齢者医療には後期高齢者医療制度の導入、在院日数延長などの問題や困難な因子もあります。
 幸い、法人内には数多くの医療・福祉施設や機能がありますので、それを最大限生かしながら高齢者の急性期医療に取り組みます。そのためには昨年秋に新設なった法人の介護福祉事業推進部と病診連携部の働きが重要です。
 今年は「連携の一層の強化」を行い、各事業所がそれぞれの機能に応じた事業をしっかり展開できるネットワークを構築します。


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7.終わりに
 新年の挨拶を終わるにあたって、キーワード「挨拶」「笑顔」「ディスカッション」をもう一度ここで強調しておきます。この三つは人間関係の基本です。これを欠くことは困難を解決する糸口を閉ざすことでもあります。
 平成20年を希望に満ちた明るい年にするよう、種々の提起と、院長としての考えを述べ、全職員のみなさん方のご協力をお願いし、年頭のご挨拶とさせていただきました。
 実際には触れなかった分野にも問題は山積みしております。それらについてはまた機会を改めてお話し致したいと思います。
          


                                                          (1月8日の医局会の内容に若干加筆した)


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