中通病院医報,33(2):57-60,1992


外来カルテ形式、記載法など改善への提言  


中通病院の外来カルテの形式はいろいろな変遷を経て、昭和53年(1978)から現在の患者固有番号制、生涯使用方式に到達したと言う〔中通病院診療必携一外来カルテ管理より引用)。患者の病歴の大部分を経時的、系統的に見ることができる点で卓越した形式である。最近になって、この方式を採用する医療機関も増えている.  
慢性疾患の治療が今ほど重要視されていなかった時代に、患者の生涯に渡る管理を重要視し、率先して本方式を採用した先人方の見識に敬意を表したい。  

当院のカルテからは患者情報の他、スタッフの個性や視点、発想の違い、自分の診療科以外の各科の医療の現状をも知ることが出来る。診療科を越えた連携治療に重要であるし、各医師の診療姿勢、臨床力に刺激を受けることも少なくない。また、各医師の診療行為の公開にもつながる。このことは同じ病院で医療をやっていくうえで重要なことと思うが、誰しもがそう考えているわけではない様である.私はかつて各科別カルテ方式を採っている病院で、受け持ち愚者の把握のため泌尿器科のカルテの借用したところ、科長から予想外の、ヒステリックな対応をされたという不快な経験がある.

 当院カルテにも問題がないわけではなく、形式の一部、記載上の約束事を改善すれば更に良くなるだろうと思う。以下に私見を述べる。

@ 退院時総括、紹介状、返事用紙の添付部位 
外来カルテの表紙をめくると、患者の個人情報、保険の別、診断名などのぺ一ジ(正式には、様式第一号(一)の1(第22条関係)、と言う)の前に、退院時総括、看護婦総括、紹介状、返事用紙、放射線報告用紙、内視鏡報告用紙などが添付されているが、これはどう考えても容認できない。 表紙の次には個人情報のぺ一ジが在るべきと思う。患者の個人情報の前には何も添付すべきでない。  

各種の添付物は作成された順序に経時的にカルテ記録用紙内に添付すれば良い。これらの書類、特に退院時総括書は患者の長い病歴の各節目毎の総括にもなる。 診療録中に経時的に添付することでカルテ記載の合理化にもつながる書類もある。例えば患者が持参した紹介状は、診療録内に添付すれば記載されている内容をそのまま診療に利用でき、ポイントを転載する手間が省ける(尤も、転載すらしない医師もいるが)。 患者を他医に紹介する際の紹介状は,その時点までの経過の簡単な総括にもなる.  

現在の添付方法では放射線、内視鏡などがどの時期どのような状況下で施行されたか知るのに苦労する上、結果がカルテには記載されていない。放射線、内視鏡結果報告用紙は経時的に添付すればこの点も一気に解決する。 
更に、これらの報告用紙は裏をカルテ用紙として用いればカルテが厚くなるのを防げる。

A退院時総括一外来診療の立場から 
外来診療の立場から退院時総括書をみると殆とが非実用的な総括である。簡単過ぎて内容が解らない総括、逆に総括書の総括が必要と思われる冗長で複雑な総括、字の個性が強すぎて判読困難な総括、など様々である。
最も困るのは、主治医が患者、家族にどの様に病状を説明しているか解らない総括、退院処方の解らない総括、外来における当面の治療方針などの重要なポイントが欠如している総括である。  

医師の総括よりも看護婦総括の方が当面の外来診療に役立つという事実は重要である。 学会への症例報告のためなどの目的で総括の記述を敢て詳細にしている科もあると聞くが、この場合には外来カルテの診療録に
当面の問題点だけでも別記すれば良い。また、退院処方も多剤の場合、外来処方欄に記載しておくべきである。入院カルテを取り寄せ、治療内容や経過、外来診療に必要なポイントを把握し、さらに退院処方内容を処方欄に写す作業は時間に追われながらの外来診療の中では辛い。  

未総括患者が外来に受診した際には、本来ならば入院時の主治医が責任をもって診察すべきである。もし、総括が間に合いそうもないときには外来カルテに入院経過のコメントを簡単に記載しておくと良い。そのための欄が外来カルテに設けられているが数人の医師しか利用していない。この程度の配慮は病院診療における医師間の最低限のルールである。  

4枚複写の総括用紙は便利な点もあるが、筆圧が不十分で見え難いのも散見される。また圧感紙の色調は徐々に淡くなる。特に外来カルテに添付された古い総括は劣化し判読し難くなっている。今はコピーの時代である。総括書はコピーして添付する方が良い。

B病名欄病名欄 
病名欄,転帰欄の記載洩れ、整理不足は目に余る。医師のコスト意識欠如の表われである。医事課員はこんな不備な病名欄から、よくレセプトを作れるものだと感心する。実際には返戻や査定されるレセプトは少なくないが、その原因は病名欄の記載の不備に由来していることが最も多い。これは医師の責任である。  

病名欄を積極的に整理するつもりで診療していても、自分の診療以外の病名欄の整理はなかなか出来ない。病名欄の整理は各診療科の科長が責任を持つべきである。  

病名欄の整理が誰にでも簡単にできるチャンスがある.即ち、急性疾患が治癒した後に別の疾患で来院した患者、慢性疾患患者がおおむね3ケ月以上に渡って中断して再度来院した場合である。これらの場合には過去の病名をすべて赤鉛筆などでキャンセルし、新たに病名を付けても、過去の分を破り捨てない限り問題になることは少ない。また、数枚重なっている病名欄の中に古くから治療中の疾患名が埋もれている場合、新しい欄に転記すると数枚の病名欄を一気にキャンセル出来る。是非やって欲しい。  カルテの病名欄が少ないのは法的に必要とされる他の項目欄が多いからで止むを得ない。追加病名欄用紙がこれに合わせたサイズである必要はなく、カルテの下部分を占領しても事実上困らないので出来るだけ大きくして欲しい。

C処方欄 
緑色の処方欄で患者の薬歴を経時的に見ることが出来る。しかし、実際にはNo99までの番号使用は多すぎる。処方箏の打ち出しがない場合に処方するときや、後日診療内容を再検討する際、処方薬の確認は困難な作業である。例えば処方番号が1、9、29、35、49、67、96、5、31、88、72の様に数が多くて、かつ番号が飛び飛びになっている場合、雑多な筆跡、4-5ぺ一ジに渡る処方欄から薬品名を探し出すのは大儀である。これを簡便にするには、診療記録に現処方を時々記載しておくか、不要になった処方箋を添付しておくと便利である。また処方欄用紙はめくられる頻度が高いから最も痛みやすい。従って,もっと丈夫な紙にすべきである.なお,
破れの修繕にはセロハンテープは使用すべきでない。経過の長い患者のカルテの処方欄はボロボロで、一部紛失していたり、セロハンテープによる修理個所が劣化しベトベトになっているなど問題が多い。  

処方欄は1枚のみに限定し、番号にかかわらず裏表に書き切れなくなったら使用を締め切り、医師記録用紙内に添付し、新たな用紙に処方をNo1から整理仕置せば良い。この場合、禁忌薬などは確実に転記する必要がある。ただし、電算化した現在、入力作業が若干煩雑になるかも知れない.    

処方薬の中止の理由が医師記録を見ても解らないのが多い。何らかの問題があって投与を中止した場合には、処方欄の薬品名の脇に簡単に理由を入れるべきである。過去に処方されていた薬品を再処方した際、不快な作用のために中止した薬であった、と患者から指摘されることは決して稀でない。禁忌でなくても、患者が不快な思いをしたことのある薬品はなるべく使用を避けたい。中止理由は是非記載して欲しい。  

薬品の追加処方の理由も解らないことがある。だから、全く効果がなかった場合でも、治療上既に不要になっている場合でも、誰も中止の労を取らないため、いつまでも無用な処方されている薬品もある。  

薬物のアレルギーなどによる禁忌薬はカルテの表紙の下部分に記載されることになっている。しかし、この部位のみへの記載では不十分である。薬物アレルギー歴欄を見ずに処方することはあるだろうが処方欄を見ずに処方することは考え難い。従って、処方欄にも禁忌薬を記載する欄を作るべきである。  

前医の処方の確認は重要である。しかし、薬品を添付したままの鑑定用紙をそのままカルテに挟み込むのは止めよう。報告された時点でカルテに転記すれば数行ですむ。錠剤でデコボコになって記載しにくいカルテや、カプセルや袋が破けて粉を吹いているカルテもある。

D 医師記録用紙 
医師記録用紙は正式には、様式第一号(一)の2(第22条関係)、と言う.中通病院の外来カルテは生涯使用方式であるため不要に厚くすることは避けたい。しかし僅か数行でカルテの1/2ぺ一ジほどを占拠する豪快な医師も居る。大きすぎるイラスト用の印鑑を用いている診療科もある。将来、当院でもカルテ自動検索機が導入されるであろうが、カルテを薄く維持しておくことは重要である。  

カルテの糊しろが縦であるのにカルテに大型の伝票や報告用紙(呼吸機能、気管支鏡報告用紙、細胞診断、組織診断報告用紙など)を添付する際、
上面に横に両面テープを付けて貼る習慣は私には理解不能である(外来カルテにもあるが特に入院カルテの場合ひどい)。縦に糊付けしてカルテ撮じ面に合わせて貼って欲しい。伝票を持ち上げて下の記録を見るのは馬鹿らしい。小型の図形伝票(蛋白分画、血液像など)はカルテに全面を添付することになっているが、上部に両面テープをつけヒラヒラと、しかもカルテの記述事項を隠す様に貼っているのが多い。この習慣も理解に苦しむ。将来マイクロフィルム化するか否かは解らないが、早急に改善すべきである.

 診療録にイラストが少ない。そのため何処でどの様な所見があり、どの様な診断、検査が行われたのかを探し出すのに大変である。身体所見や、検査施行時にはイラストで残しておくとよい。胸部Xp撮影、ECG、UCG-UCT、Holter ECG、24時間血圧計などは結果をカルテに貼るべきだが、最低限検査施行を示すイラストが欲しい。アインラーフ、GTFなどはゴム印が押されているがイラストがなく不十分である。病的部分のイラストを書くのは勿論であるが、正常であっても図があればカルテをパラパラとめくるだけで検査された時期と所見が簡単に解る。生涯使用カルテの場合、情報がすぐ取り出せるような工夫が必要である.
 イラストがないと特に困るのがECG所見である。救急外来には循環器外来通院中の患者が時々胸痛、動悸を訴えて来院する。ECG検査を行い非定型的パターンが得られた場合、従来のECG像と比較出来ないので判断に困窮する。急患室を頻回に訪れる患者の絶対数はそれほど多くはないので、ECG像はコピーして是非添付しておいて欲しい。他科の医師には専門医が書いたECG所見のみでは判断に困る。

 複数の医師で診療されている病院では経過観察上の懸案事項はカルテ用紙の上部にでも朱書しておくと良い。例えば、原因不明のCEA高値例とか、細胞診で"Class、、要注意"などと書いておくと良い。異なる視点で診れば一発で解決する様な事項もある。

Eカルテの更新について
 生涯使用カルテであるが、厚さが1.5cm以上になったときはNo2、3と更新することになっている。この場合、医事課職員が各診療科の担当医師に依頼して各科の総括を作成し、それらを合わせて作ることになっている〔中通病院診療必携一外来カルテ管理)。この方法には
三つの難点がありうまく運用されていない。第一に診療科によっては複数の医師が診察しており、どの医師が外来主治医か判断でき難い。第二に依頼された医師が素直に短期間に総括してくれる可能性は極めて低い、という点である。また、この様なカルテの患者は頻回に外来に受診するのでカルテを索して右往左往する医事課職員の苦労が目に浮かんでくる。第三に、よしんば、もし、仮に、短期間に、素晴らしい総括が出来上がったとしても、カルテそのものよりは役立たない、という厳然たる事実である。

 
旧カルテの約1年分、または切れの良いところからはぎ取って、そっくり次のカルテに移行させる更新方法が簡単で最善の方法と思う。診断名や処方欄は先に書いた方法で整理すれば事足りる。伝達されるべき総括書、処方欄などはコピーして貼ればよい。医事課職員にとっても、医師にとっても共に楽であるし、更新の効果も確実で、失われるものはまずない。

 以上、外来カルテの形式、記載方法のうち改訂して欲しい点について私見を述べた。実は、ここに記載した内容の多くは私が赴任して間もなく医局運営委員会に提起したものである。その時は却下されたが、慣れるより、ますます不満が募って来ている。何とかして欲しい。早急にどこかで検討されることを望んでいる。                               

                                                                                                                                 (1992.6.17記)